先行者利益とイノベーションのジレンマのバッティング

ITベンチャーなんかの話で、先に起業して業界シェアを広げてしまった方が有利だ、ということを聞きますが、本当なんでしょうか? 先行者利益というのは存在するんでしょうか?

個人的には結構胡散臭く思っていて、先にシェアを取っても後から来た企業が、先行者のサービスの問題点を改善し、模索する必要も無いので安い費用でより良いサービスを提供してしまうことで、かえって先行者が損をすることも結構あるものだと思います。

MySpaceとFacebookの関係は分かりやすいですよね。あるいは日本で言えばmixiもそうですが、ソーシャルネットワーキングサービスで天下を取ったのはFacebookでした。もちろんそのFacebookもこの後どうなるかは分かりませんが、1セントも売上がないInstagramを高額で買収していたことが、結果的にFacebook本体の減速を補っています。その資金をもたらしたのはFacebookそのものですから、やはり成功したと言えるでしょう。
一方でMySpaceやmixiはSNSにおける勝者になれませんでした。どちらも2000年代前半に始まって当初は大きく広がったはずですが、その小さな成功を大きな成功に持っていけなかったわけです。

もっと巨視的に見ると、いち早く広がったサービスがある一方で、そのサービスにとらわれて新しいシステム・テクノロジーの導入に遅れてしまうということは社会全体にもあり得ます。

先日、FAXの呪縛についてのnoteを書きましたが、

これだって日本やイスラエルでかつてFAXが大きく普及して便利になったことが、未だにFAXが一部で残り続けてしまった結果をもたらしたことになります。

その他にも、日本は現金での支払がまだ多く残っていて、世界的なキャッシュレス化の波に乗り遅れていると言われます。それはとりもなおさず、現金を扱うのが非常に便利な社会だからであって、そうなるように多くの技術と労力を費やしてきたからでもあります。紙幣・硬貨の偽造を防ぐための技術が進み、印刷や鋳造の技術が磨かれ、それを認識するATMや自動販売機の読み取り装置の技術開発や進展も世界的に見ても希有なものがあります。

また、ATMやCD(キャッシュディスペンサー)の普及も現金社会の利便性に大きく寄与しています。あらゆる銀行・郵便局や駅・商業施設などで気軽に手軽に現金を引き出せますので(しかも条件付きでほぼ手数料無料で!)、現金を利用する不便さを感じることがないほどの社会を作り出しました。

その結果として、別にキャッシュレスにしなくても不便をあまり感じないような情勢になってしまい、他国に比べるとその進みが遅くなってしまう、という状態になっています。

偽札に悩まされ、小切手払いの不便さが残るアメリカ社会でクレジットカード決済が進んだことや、同じく偽札や社会統制の問題からキャッシュレス化をすることのインセンティブが大きかった中国などの事例を考えると、テクノロジーの導入が進んでいるかどうかというのは時の政府や社会だけの問題ではなく、歴史的な流れを見るべきでしょう。いわゆる、「イノベーションのジレンマ」でもあります。先に進んだことで後で送れてしまう、というのはまるで「ウサギとカメ」の童話のようです。

そういえば今年はアメリカ合衆国の大統領選挙の年です。今年はコロナウイルスの問題がある中、どこまで従来通りの選挙が行えるのか分かりませんが、その選挙方法については古いシステムだというのは4年毎に取り上げられるくらいです。州ごとの選挙人団を取り合っての戦い方というのは、19世紀前半にはそれなりに効率が良かったのでしょうし、そもそも当時としては民主主義の最先端でもありました。それが上手く機能していたからなおさら、ずっと残り続けて問題の多い(得票率や得票数と、獲得した選挙人の数の逆転など)システムとなってしまいました。だからといってすぐに選挙方法が大幅に刷新されるとは思えません。ある意味これも、イノベーションのジレンマと言えるかも知れません。

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