ロシア:欧米=秦:韓魏趙燕斉楚?

バイデン大統領の登場により、アメリカとEUの連携は復活しそうです。ただ、EUという組織と、ヨーロッパ各国とは異なる外交をすることがあります。

それが顕著なのは対ロシア外交です。事実はどうあれ、ロシアと対立するウクライナにおける権益に息子が関わりのあるバイデン大統領が、ウクライナを見捨てることはないでしょうし、東方拡大によって巨大化してきたEUがウクライナ・ベラルーシなどへのロシアの影響力排除を指向するのも変わらないでしょう。

その一方で、EU内で最も影響力のある大国であるドイツはそこまでロシアと対立するつもりはありません。

ロシアとの天然ガスパイプラインが必要なドイツにとって、ロシアとの決定的な亀裂を作るわけにはいきません。原子力発電を止めたドイツは、供給量が不安定なクリーンエネルギーの穴埋めに、CO2排出量が比較的少ないガス発電は欠かせない発電方式です。

フランスや北欧諸国はロシアにおける人権問題、特に野党指導者ナワリヌイ氏の拘束に対する非難を強めています。まあフィンランドやスウェーデンという隣国は、そもそもロシアと安全保障問題において、過去も現在も未来も対立する地政学上のポイントがあるので、擁護するわけがありません。あと、フランスも人権問題では譲ることは国是として難しいでしょう。

その一方で、ドイツは経済的つながりの強い中国に対して人権問題で及び腰であるのと同様に、ロシアに対してもパイプラインという弱点があります。

かつてはトランプ大統領が原因となって米欧の連携弱体化が起きましたが、ドイツもその原因になりかねません。

EU全体での行動については全会一致が原則ですので、ドイツが公式なり非公式なりに対ロシア問題で消極的な態度を取ると、ロシアにとってはヨーロッパ諸国はやりやすい相手になるでしょう。

ロシアにしてみれば一番嫌なのは、アメリカとEUが対ロシア外交・安保で一体化して立ち向かってくることです。逆に言うと、アメリカ・EU・欧州各国がそれぞれバラバラな立場でロシアと対応してくるとやりやすい相手となります。

まるで古代中国戦国時代の後半で、後に統一する秦とそれ以外の六国との合従連衡の関係性のようにも思えます。

「合従」とは、秦以外の六ヶ国(韓・魏・趙・燕・斉・楚)が連合して、強大になりつつある秦に対抗しようという考え方で、
「連衡」とは、秦が六ヶ国それぞれと一対一の関係を作り、どちらもそのまま国を維持しようとする考え方です。

短期的には合従派が強大となり、六ヶ国が同盟することもありましたが、その後の歴史が示すように秦が各国を一つずつ撃破していって当時の中国を統一したという結果となりました。

なぜ六ヶ国の連携を続けて強い秦に対抗しなかったのか? と思ってしまいがちですが、当時は当時でそもそも自国の維持が精一杯だったでしょうし、結局は後知恵です。同盟が常に一つにまとまっていられるというのはかなり難しいことです。20世紀後半の東西冷戦時代での西側諸国においても、ずっと良好な関係と言えたのは米英・日米関係くらいでしょうか。フランスは結構西側諸国の中でも独自路線というか、普通にアメリカと揉めたりもしてましたし。

さて、ロシアは欧米諸国の連携の乱れを突いて各個撃破出来るでしょうか? 撃破と言っても直接的な全面戦争がこの時代に起きるとは思えませんが、戦争まで行きたくないと相手側に思わせて譲歩させたら勝ちです。

EUとして結束しているならまだしも、各国が分裂してそれぞれで対抗しようとすると、合従連衡のようにロシアの影響力を跳ね返せないかも知れません。

EU一番の大国であるドイツの牙が抜かれたらEUはガタガタになりかねませんが、アメリカがというかバイデン大統領がどこまで対ロシア連合を続けていけるかという4年間になるでしょう。

六国合従を打破して中国を統一した秦(統一後は秦帝国)は、始皇帝死後に崩壊しました。ロシアがヨーロッパを統一するとは思えませんが、ロシアが今の強権体制を拡大していったとしても、東西冷戦崩壊の歴史と同様に、結局は維持できないでしょうね。

ちなみに、プーチンが大統領に就任したのは49歳で、秦の始皇帝が亡くなったのも49歳でした。特に関係はありませんが。

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