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インデックスファンドのような民主主義社会

自由と民主主義によって過去の矛盾を克服していた人間の歴史は終焉を迎える、というのが90年代前半に大きな影響を与えたフランシス=フクヤマ「歴史の終わり」(原題は”THE END OF HISTORY AND THE LAST MAN")の主張でした。

少し後に出た、サミュエル=ハンチントンの「文明の衝突」(原題は”The Clash of Civilizations And the Remaking of World Order")との比較がよくなされますが、90年代の民族間の内戦や2001年の同時多発テロ、そしてIS(イスラム国)などの発生によって、フクヤマよりもハンチントンの方が正しかったのではないか、という人もいます。ただ、どちらも途中の事実認識や未来予測はおかしなものではありません。フクヤマの「歴史の終わり」にもはっきりと、今後の民主主義社会では移民問題が出てくると断言されています。

今の日本に生まれ、育ち、そして過ごしているからという理由もありますが、自由主義・資本主義・民主主義で説明できる西洋的な社会(日本含む)というのは人類にとって(少なくとも比較的に)望ましいものだと思います。ただ、この思想が押し付けになると反発を招き、中国やイランあるいは今のトルコやロシアなどは、政権支配を強固にする技術だけを抜き取りいいとこ取りをしつつも、そういった西洋的思想を攻撃しています。

そういった、民主的ではない全体主義的あるいは特定の宗教的国家からみれば、民主主義社会が時折やらかす失敗は理解できないものでしょう。

トランプ大統領を選んだアメリカ国民の選択や、ブレグジットでひたすら混乱し続けるイギリス、小泉内閣の新自由主義から民主党政権を経てアベノミクスへの迷走など、全体主義的な政府では起こりえないような展開(現時点では失敗とは言えません)でしょう。

しかし、民主主義にとっては失敗はつきものです。人間だから失敗はあります。時としてとてつもなく愚かな選択をしてしまいます。過去にも、ナチスドイツを合法的に政権与党にしたのは民主的なワイマール共和国においてでした。そのナチスドイツに対して弱腰な宥和政策を選択したのも民主主義国家として歴史ある大英帝国でした。間違い続きのベトナム戦争から撤退するまで時間をかけすぎたのも建国時から民主主義が根付いていたアメリカ合衆国でした。

しかし、ドイツは戦後東西に分かれながらも復興し、統合ドイツはEUを経済的に支配するほどになりました。イギリスは植民地を手放し国力を弱めながらも未だに世界において金融センターを中心に影響力を持ち続けています。そしてアメリカは冷戦崩壊後の唯一の超大国として存在しています。

自由・資本・民主主義国家は失敗がありつつも、長期的に見れば発展し、そしてそうではない国家に打ち勝ちます。失敗はありますが失敗続きということは起こりません。失敗した政権はいつかは取って代わられます。成功と失敗が入り混じりつつも、トータルで見れば成功の方が多いから発展していきます。

全体主義や独裁体制の場合、いったん成功すれば成功し続けて民主主義をあざ笑うことが出来ることもあるでしょうけれど、そうなることは非常に確率的に少ないです。過去の成功体験が未来のイノベーションを阻むがゆえに失敗するというのは、大企業経営だけでなくあらゆる組織体に共通する問題でしょう。

全体主義国家は失敗したときに権力者が自己保存のため失敗を自己正当化してその失敗を続けてしまいます。毛沢東が大躍進政策で失脚し、復権するために文化大革命を起こしたのがいい例でしょう。

成功は永遠に続くものではなく必ずどこかで失敗します。失敗した時にその失敗を取り繕い正当化してしまうとその失敗が続いてしまう。そんなリスクを選択しないのが民主主義社会です。

例えていうなら、民主主義はインデックスファンドのようなものです。

インデックスファンドは基準とする指数に連動するように運用しますので、指数自体の上下によってファンドの価値も上下します。日経株価指数やTOPIX、ダウ工業平均などが有名ですが、個別の株式に比べると当然ながら上下動が少なくなります。個別株はその企業の業績やニュースリリース、不祥事や事件事故などで上下動が大きいです。何十何百もの企業の株価をまとめて平均化した指数であれば上がる企業もあれば下がる企業もあるので、全体としては上下動が穏やかになります。そのため大儲けも大損も個別株投資と比べるとしづらくなります。

その指数を構成する企業群やその市場全体が発展すれば、指数自体も値上がりし、指数をベンチマークしているインデックスファンドも値上がりする、という仕組みです。多少の上下はありつつも大儲けも大損もなく、長期的に見たら最初の頃より上がっている、という投資方法というところが、民主主義社会の発展と似ているのではないでしょうか。

そして全体主義国家というのは個別株投資であり、しかもその株を売って別の株を買うこともできないような状態です。失敗したとしても損切りせずにひたすら下がり続ける株価を眺めて苦しむようなものであり、そういう社会よりは、大儲けせずとも少しずつでも発展していくであろう社会を選ぶほうがいいのは言うまでもなくありません。

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