サッカー日本代表の方針は監督で左右されるべきか?
サッカーのワールドカップは波乱の連続でもあります。いつの大会でも波乱の連続のような気がしますが、今大会はそのうち2試合は日本が主役でしたので、記憶にも残りやすいでしょう。
森保監督率いる日本代表が、これまでと同じくベスト8以上の目標を達成することが出来ずに終わったことで、改めて今後の日本代表がやるべきサッカーについて議論もされています。
その議論の中で、多くの人がポゼッションを重視し、より攻撃的に戦い、相手を圧倒して勝つサッカーをすぐに志向する方向を指示していることです。実現可能性と、勝利可能性の2点から少し疑問に思ってしまいます。
まず、実現可能性については、ワールドカップで戦う相手も基本的には強豪です。そういう相手に対して日本代表が攻撃でも守備でも相手を圧倒できるようなポゼッションサッカーが果たして出来るのか。それだけの人材が「現時点で」選手層に溢れているのか。そしてそれを実現出来る監督を連れてこられるのか。
また、勝利可能性については、まさに日本が勝ち負け両方の立場で証明したように、ポゼッションで優勢だからといって勝つとは限りません。ドイツとスペインは日本相手に失敗し、日本はコスタリカ相手にボール保持で優位に立ちながらも失敗しました。ボールを保持するだけでは勝てないし、場合によっては戦況を無視して一人でゴールを奪える爆発力を持っている選手が必要です。ドイツも日本もスペインも、そんな選手がいませんでした。ポゼッションサッカーは優位には立ちますが、勝利を約束はしません。
そもそも、「自分たちのサッカー」がなぜ、「ポゼッションサッカー」に即結びつくのでしょうか? ボールを支配して圧倒的に攻撃して戦うサッカーが、いつから日本の「自分たちのサッカー」になったのでしょうか?
アジア勢と戦うときには、テクニックやフィジカル面から、大半の試合で日本がボールを保持する立場になります。それは監督による戦術的な原因というよりも、選手個々の強度・経験・技術・体力によるところも大きいはずで、日本サッカー界が継続的に強化に成功しているからこそ、ポゼッションを出来ているのです。
そしてワールドカップでポゼッション出来なくなるのは、その同じ理由で逆の立場になるからです。自分たちのサッカーが本当に、攻撃的なポゼッションサッカーなのか、今一度考える必要があるんじゃないでしょうか?
第一、監督が素晴らしい戦術を徹底させて、一時的に素晴らしい結果をもたらしてくれたとしても、その監督が離任したら元の木阿弥に近くなりかねません。永遠にその監督がいるわけでもないですし、その戦術が通用するわけでもありません。
2002年のワールドカップで韓国をベスト4に引き上げたヒディング、2004年の欧州選手権でギリシャを率いて優勝したレーハーゲルはいずれも素晴らしい仕事をしました。しかし、その素晴らしい地位が継続出来るはずもなく、韓国は良くてベスト16、ギリシャは2014年W杯はベスト16でしたが、それ以外のW杯・EUROは出たり出なかったりのレベルです。
代表監督だけ外から連れてきて、素晴らしい戦術で素晴らしい結果を出しても長続きしないのです。そのサッカーがピラミッドの下部まで行きわたりません。
日本の成長はベスト16で跳ね返されていますが、ボトムアップ式で日本は強くなってきたのであり、遅々とした進化だが、焦るべきではないでしょう。
サッカーにはその国の国民性も反映されます。日本は権威主義的とも言われることがありますが、むしろ結構トップダウンに反発しやすい国民性です。
代表監督もトップダウンは向いていません。トルシエの時は最後の最後にDF陣が反乱して監督を無視してラインを下げました。選手・監督・協会で関係性が悪化してしまったハリルホジッチの時は監督交代しか無いほどでした。
森保監督が最適とは思いませんが、ボロクソに非難されるほど代表監督に向いていないとも思いません。それは、試合における戦術面を見るか、監督としてのオーガナイズを見るかの違いにもよるでしょう。
試合における戦術は重要ですが、それ以外にも監督に必要な要素はたくさんあります。
代表監督だけが、その国のサッカーの強化に関わっているわけではありません。その国のサッカーのピラミッドの下から、順序立てて強化していった最後に、代表チームの成果が出てきます。その成果だけを、素晴らしい監督による素晴らしい戦術によって伸ばしても、先細ったピラミッドの先端は不安定になるだけです。
誰が次の日本代表監督に就任するか(あるいは留任するか)分かりませんが、代表チームの結果の全てが代表監督だけに左右されるわけではないことは、頭に入れておくべきでしょう。
日本代表は、21世紀以降の代表チームの中で、南米・欧州勢を除けば一番安定的に成功しています。21世紀の全てのワールドカップとオリンピックに出場し、ワールドカップでは4回GL突破、オリンピックでは2回ベスト4に進出しています。
その先に行けないために、どうしても最前線にいる代表監督が槍玉に挙げられてしまいますが、広い目で見た強化方針は間違っていないのでしょう。もちろん、細かい範囲ならいくらでも間違いが見つかるでしょうが。
軍事戦略家のエドワード・ルトワックが言う、
「戦術は戦略に勝てず、戦略は大戦略に勝てない」
という箴言は、多分、サッカーにも通用するはずです。
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