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政権は政治資源を使い果たしたら終わる〜政権リソース論〜

かつて日本の首相として、安倍晋三に抜かれるまで連続在任記録を保持していた佐藤栄作は、首相の権力について
「内閣改造をするほど権力は下がり、解散をするほど上がる」
と言ったそうです。当たり前ですが解散しても負けて政権を失ったら話になりませんが、自民党が過半数を得て当たり前の時代だからこそ成立した名言です。

言い換えると、政権運営のために内閣改造をするとかえって政権の寿命は縮まり、選挙で勝てば政権は長続きするとも言えます。

一つの政権がどれだけ続くか、交代はいつ起きるかということを考えると、その政権発足時に抱えている政治資源・政治的リソースを使い切ったときに終わりを迎えます。

民主主義国家では、選挙で勝てばその政治資源・リソースが補充されますが、それ以外の出来事では補充されません。帝国主義時代なら対外戦争に勝てば政治的リソースは補充されましたが、現代ではそもそもそう簡単に戦争・紛争・武力行使など起きませんし、例え戦争に勝っても補充されません。湾岸戦争において確実な勝利と鮮やかな撤退をしたブッシュ政権が、その後の大統領選挙で民主党のクリントンに敗れたことを思うと分かりやすいはずです。

そして戦争に限ったことではなく、自然災害や新型コロナのような大規模感染症など、政権が逃げようがなく、政治として相対せざるを得ない大規模な社会的出来事も同じです。その対応をするだけで政権の政治的リソースは減っていきます。そしてその対応に失敗したら政治的リソースが枯渇して政権の終わりを迎えます。

菅政権で言えば、1年前に自民党総裁選で勝って政権が始まりましたが、国政選挙は経て発足した政権ではありませんでした。その直前の安倍政権の政治的リソースの残りで運営されていたのです。

菅政権の1年は、新型コロナ対策でリソースをすり減らした上に、国民の何割かは反対していた五輪開催を実施することによってリソースを使い果たしました。菅首相が解散を打つ打たないをするしないといった噂やニュースが流れながらも、解散をせずに、自民党の三役の中でも一番の核である幹事長の交代をしようとして出来ず、結局次の総裁選を諦めることになりました。まさに冒頭の佐藤栄作の至言がその通りだったとも言えます。

その自民党総裁選で勝った候補が首相になって衆院選に挑むことになりますが、勝てば政権は2,3年は続くでしょうけれど、議席を減らすと厳しくなりますし、自公連立政権で過半数割れを起こすといきなり危機的状況になります。その場合は維新との連立か閣外協力が必要になり、政治的リソースの補充は非常に少なくなりますし、そもそも維新への配慮による政策の実現によってリソースを減らすことになるでしょう。

ドイツではメルケル首相の任期終了が近付いてきましたが、16年に及ぶ政権運営は上手さが目立つものでした。今ではリベラルな環境保護派っぽく見られますが、3・11までは原発ガンガン推進派でしたし、ロシアとのノルドストリーム(2含む)によるエネルギー源での密接なつながりもあります。

むしろメルケル首相は風見鶏的に、その都度その都度の政治的問題に対処してきたと言えます。選挙の度に連立政権を組み替えることによって、選挙結果がどう転ぼうと政権の強化(政治的リソースの補充)が出来たメルケル首相は大政治家でした。状況を見て政策を変えて対応してきたからこそ、風見鶏と呼ばれることになりますが、そもそも世間や社会の風に逆らう方が政治家としては悪かも知れません。

そう言えば、日本の首相で風見鶏と呼ばれた中曽根康弘も、選挙の度に権力を強くしていき、衆参同日選挙で大勝して総裁任期を1年延ばした実績があります。

携帯料金下げますというだけのワンイシュー的に動いた菅政権が1年で終わることと対照的でしょうか。

郵政民営化一本だった小泉純一郎がなぜ長期政権を築けたかというと、2001年の参院選、2003年の衆院選、2004年の参院選と、苦しみながらも大負けはせずに続けて、郵政選挙と呼ばれた2005年で大勝したからです。

政治家は、あるいは政権は選挙で勝ってナンボです。選挙に勝てない、あるいは選挙を経ていない総理総裁は権力を維持できないということが、今回の菅政権の末路を見るとやはり証明されたと言えるでしょう。

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