民主主義国家の多様性と選挙

イギリスの新首相にトラス元財務相が就任することになりました。

生のレタスが腐るよりも早く辞任してしまった、イギリス史上2人目の女性首相だった前首相は残念でしたが、今回の新首相はイギリス史上初の非白人・アジア系・ヒンズー教徒の首相ということになり、目玉と言える特徴が目白押しです。

ただ、今のイギリスはそういうプロフィールのアピールをしている余裕も無く、この若き首相がすぐに辣腕を振るうことを求めています。

イギリスは貴族的で社会階層も分断されているような印象がある一方で、女性首相が2人も出たのに、そこから独立したはずのアメリカ合衆国は未だに女性大統領は誕生せず、非白人の大統領もオバマ元大統領のみです。宗教に至っては、アメリカ大統領はケネディとバイデンがカトリックなだけで、2人以外の大統領は全てプロテスタントでした。

イギリスとアメリカでは「多様性」の実現度合いが違う格好になりましたが、君主制と大統領制の違いもあるのかも知れません。それでも女性には女性の国王が過去に複数名いますので、結局アメリカの方が女性がトップになれない国になってしまっています。

ともかく、これからのイギリスの命運は旧植民地からの移民の子どもであったスナク首相に託されました。さすがに前首相ほどの失敗(党員の支持を得た減税策だったのですが)はすぐにはしないでしょうけれど、どうなるでしょうかね。

日本の首相が毎年のように代わる!という批判は、安倍第二次政権期と小泉政権期を除き、21世紀になっても事実ではありますが、ダメなときにダメなトップが代わるのはそれはそれで正常というかあるべき姿なのではないかとも思います。アメリカのように4年間必ず続けられる(ニクソンみたいなことがない限りは)というのも、良い面も悪い面もあるのでしょう。

思いっきりイギリスの影に隠れていますが、イタリアも首相が代わり新政権が発足しました。メローニ新首相はイタリア共和制76年の歴史において初めての女性首相であり、こちらもアメリカに先行して国家元首を女性が務める事例を生み出した次第です。

ちなみに、自由・平等・友愛をモットーとするフランスでも、女性大統領はこれまで存在していません。首相は現任含めて2名いるのですけれど。

アメリカやフランスの方が、イギリスやイタリアよりも自由や男女平等っぽい印象が勝手ながらあるのですけれど、国家元首については明らかな差があり、皮肉にも感じます。

もうすぐ行われるアメリカの中間選挙でも、2年前の大統領選挙同様、郵便投票が民主・共和両党の議論の火種になりそうですが、州ごとに選挙制度に大きな違いがあり、結構杜撰にも思えるシステムで実施されているのは、現代日本に暮らす人間にとってはかなりの驚きもあります。アメリカこそ、イギリスと並んで民主的な選挙制度の本場であり、19世紀初頭にトクヴィルが見た先進的な選挙制度が、今では世界的に見ても古いシステムとなってしまったのは、これまた大いなる皮肉でしょう。

どこかで読んだ話で、アメリカンフットボールでは適当に置いたボールを審判がメジャーを持って正確に測る、という小話がありましたが、アメリカの選挙制度も似ているところがあるかも知れません。

日本の選挙制度も、今年の参議院選挙でそうであったように、恒常的に一票の格差が是正されないまま実施され続けています。事情判決の法理はしようがないものでしょうけれど、その司法のある意味「温情」に対して、立法が応えるには、ハッキリ言うと地方を切り捨てなければなりません。

一番良いのは、過疎地域の解消を行い、都市と地方の人口密度格差が改善されて、一票の格差が是正されることですが、数十年がかりで成功するかどうか分からないレベルの困難なものです。現実的には、都市の国会議員数を増やして地方のそれを削るしかありません。

ただ、与党も野党もマスコミも、それを主張すれば地方切り捨てだとの非難を浴びるのが目に見えているので言わないのですよね。

一票の格差を無視して地方の議席数を維持するか、一票の格差を重視して議席配分を変更するか、近未来的にはこの二択しかないのですが、空気を読んで皆黙るというのが、日本の政治の問題点の一つなのは間違いないでしょう。

多様性の実現はその先ですかね。

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