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わざと、鈍く。

 あらゆる概念・業界のグローバル化とIT化によって、何でもかんでもスピードアップして最先端をキャッチアップしていくのが非常に大変な世の中になりました。「日本はこの分野で世界から遅れている」「〜〜取り残されている」と言われることも多くなりました。

 日本が世界第3位のGDPを誇る経済大国であり、人口も多い国ですからどうしても世界の競争のまっただ中で戦うことは多くなりますが、全ての分野で最先端を走り勝利を収めるというのはどだい無理な話です。なぜなら同じ理由で世界1位のGDPでもなく、世界1位の人口でもないからです。逆に言うと、世界1位のGDPを誇るアメリカ合衆国と、世界1位の人口を誇る中華人民共和国の2カ国だけが、全ての分野でナンバーワンを目指すポテンシャルがあると言えます。ただ、人口に関しては中国が一人っ子政策の影響から抜け出せずにいるうちに、インドに抜かれることはほぼ間違いないのでこの点はしばらくしたら変わるでしょう。

 ともかく、日本がアメリカ、中国、インドに比べてGDPでも人口でも勝てない以上、勝てる分野を絞ってリソースを配分する必要は出てきます。人間としての命や尊厳に関わる問題は遅れてはいけませんが、それ以外の分野についてはある程度、選択的になってしまうのはしょうがない気がします。言い方を変えると、一部の分野で日本が世界から遅れるのを受け入れた方がいい、ということです。

 国家レベルの話ではなく、個人のレベルにまで小さくすると分かりやすいかも知れません。一個の人間が、世の中で話題になっている問題や必要とされる能力全てに通暁することが不可能なのは容易に想像できると思います。1日は24時間しかありませんし、個人の体力も有限です。何かを習得しようと思って時間や労力を費やすと、その一方でおざなりになる分野や技能が出てくるはずです。その習得に関して個人間での差異があるのは当然です。習得が上手な人、下手な人は現に存在します。そういう場面に出くわしたときに、時間も体力も有限なのに向いてない分野にリソースを割り振るのがはたして適切でしょうか? 個人の願望や夢の観点から考えると非効率でもその人の責任として済ませられますが、国家が国家戦略としてリソースを意識的にしろ無意識的にしろ割り振るのは責任という観点から見ると当然のことだと思います。

 国家や政府ではなく、民間セクターにおいていえば、これは効率性を最優先して分野を選択してリソースを配分するはずです。少し前に「選択と集中」という言葉が流行りましたが、まさにそれです。前世紀あるいはバブル景気の頃に肥大化した多角化事業を整理して、自社にとって本当に強みのある分野に集中することが企業を継続するのに重要だと経営陣や株主が判断したということになります。

 20世紀の日本は二度、世界の覇権に挑み、敗れました。一度目は1940年代に軍事力で、二度目は1980年代に経済力で太平洋の向こうのアメリカと戦いましたが二度とも強大な力に屈服し、その後の苦境を招きました。もう一度世界の覇権をかけて争う機会が訪れるかどうか分かりませんが、やはり勝つのは難しいでしょう。

 常に鋭く全ての分野において最先端をキャッチアップしていくのは相当なリソースを必要とします。ある程度選択して、それ以外の分野についてはわざと鈍く、周回遅れでも認めるくらいに割り切った考えを持っておいた方が合理的ではないでしょうか。

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