人工的なひかり、告白

鼻をきつく詰める生々しいあの鉄の匂い、一度流れて出たものが私の中に戻ることは決してありません。それでもあのとき私が感じたもの、それはちいさな償いのつもりでした。自慰行為のようなものにすぎなかったのかもしれません。
私が見たものは赤ではなかった。私のいちばん好きな色の、真反対の色をしていました。もしこの星のどこかしらにあんな色の海があれば、私はきっと絶望よりも大きな何かを抱える。

つまり私は何者かになりたかったのです。私というひとつの存在が、正しい輪郭が誰かの目に留まるような「何者か」に。
あなたはあなたです。しかし私は、私ではありません。私の在るはずのこの場所には、まるで私が無いかのように空気が混じり込む。
光は私の輪郭で屈折をすることがありません。通り過ぎて、そのまま遠くに吸い込まれてゆく。
誰の目にも届かないどころか、光の世界に実態がないのです。では魂は?……、。
私は確かに存在します。私にはその自覚があり、誰に伝わらなくともひとりきりでの証明はできる。必ずできるのです。「必ず」というのは「絶対」「百パーセント」です。
私と対面する不特定多数を、私は総じて「他人」と呼びます。
他人には何かが見えています。その「何か」を、他人は私と呼びます。
私はきっと臆病ものです。殻に深く閉じこもって、ずっと、ずっと隠れている。
誰かにこの殻を壊して欲しい、そして私自身を壊して欲しいと心のどこかで願っているのでしょう。だから自分自身を傷つけるし、欲望のままに私を身勝手に消費されたいと感じています。
私の、全ての言動は自己防衛本能に基づいています。ときには他人を攻撃し、他人の見ている「何か」さえ盾にし、笑われないように、傷つかないように、傷つかれないように、正解だけを追い求めて、一瞬一緒を迷っています。
身動きが取れないのです、虚像の私にからだを乗っ取られて。

私はさっき、あなたはあなたです、と言いました。しかし実際のところどうなのでしょう。私にはあなたが見えているのですか?あなたがそれを疑い、私がそれを疑い、互いに少しづつ歩み寄ってそれは確かめられる。

私があの子につけた傷は、今でも残っているのでしょうか。いや疑うまでもない。傷は簡単には治りません。たとえ完治しても、傷があったというその記憶だけで、十分な傷になります。
私の目にはそれらが見えません。が、彼には少し見えているらしいのです。きっとそれが彼の持つ優しさであり、賢さなのでしょう。
私がつけてしまった傷は、私には治せません。
私がつけてしまった傷を、背負って生きてゆく人間がいったい何人いるでしょうか。私についた傷の数と、私がつけた傷の数では、いったいどちらが大きいのでしょうか。

孤独は、誰にも伝わらないからこそ孤独でしょうか。だとしたら孤独は、孤独のままなのでしょうか。
私は孤独です。ちがいます、それは「一人」という意味ではありません。たくさんの他人に囲まれて、関わって、善意も、悪意も受け取って、それでもやっぱり孤独なのです。

アンドロイドに蝶は見えません。
それではまた、どこかで。

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