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ちょこっと読書感想文 「純喫茶トルンカ しあわせの香り」八木沢里志 著

大好きな読書を、ただ読むだけで終わらせたくないと、ふと思ったので、読書感想文シリーズを始めてみました。気負いすぎないように、ちょこっと記録を残すような気持ちで書きたいと思います。

最初の一冊目は、八木沢里志さん著の「純喫茶トルンカ しあわせの香り」です。谷中銀座商店街の賑やかな通りを折れ、細い路地の一番奥に隠れるように存在する純喫茶トルンカ。そこの常連客である3人にまつわるお話です。


「午後のショパン」

純喫茶トルンカに二十年通い続けている千代子さん。
人生経験を積んだ千代子さんから見る世の中の景色は深みがあって、谷中銀座商店街に行ってみたくなりました。

「〈再会とは、人生における一番身近な奇跡である〉」
忘れられない人を探すかを迷う千代子さんに、純喫茶トルンカのお客さん・ヒロさんがかけた言葉です。
人との出会いを奇跡と呼ぶ人は多いけれど、再び会えることも奇跡だと気づける人はあまりいないんじゃないでしょうか。なぜなら、私たちの生きる世界では「次」があることが当たり前になっているから。それは、とても恵まれた世界だと思います。
ワーホリを始めてから約一年。同じくワーホリビザを持つ友達との別れを経験するたびに、これが本当のさよならかもしれないと感じます。SNSのおかげで、相手の様子を知ることができるとは言え、次、実際に会って話ができるのはいつだろう。その奇跡を体験できることを楽しみに、今の日々を大切に過ごしたいと思わせてくれました。

「シェード・ツリーの憂鬱」

純喫茶トルンカのマスターの娘・雫の幼馴染である浩太。
病気のために若くして亡くなった雫の姉・菫から「雫のシェード・ツリーになって」とお願いされた男の子です。

「コーヒーの木にはシェード・ツリーが必要だけど、シェード・ツリーにもコーヒーの木は必要じゃない。コーヒーの木があるおかげで、シェード・ツリーははじめて存在できるんでしょ。一緒にいられるから、太陽をいっぱい浴びて成長できる。それってお互いに守り守られてるってことになるんじゃないの」
純喫茶トルンカで撮影された映画の主演を務めた、田所ルミの言葉です。
人との繋がりは、常にこの関係で成り立っているんだろうなと感じました。支えが必要な人と、支える相手が必要な人。相手の存在が、自分を強くさせる関係性。一見、一方通行な関係性に思えても、完全に一方通行で成り立つ人間関係はないんじゃないでしょうか。
まだまだ未完成で多感な高校生の浩太と雫だけど、それぞれにいろんな事情や思いを抱えて生きています。お互いがそばにいることが当たり前。そんな相手がいることが、純粋に羨ましいと思いました。そして、浩太と田所ルミの関係性。これからこの二人の人生が交わることはきっとないのだろうけど、それでも、お互いにとって必要な出会いだった、まさに一期一会な出来事だったと思います。

「旅立ちの季節」

イラストの仕事をしながら、商店街にある花屋でバイトをする絢子。
私自身と年齢も近く、重なる部分が多くて、すごく共感しながら読みました。
やりたいことをしているはずなのに、どこか満たされない気持ち。
挫折を経験しながらも、自分の足で進もうとしている人への尊敬と羨ましさ。
世の中のことをわかっている気になっていたけど、本当の意味で理解できていなかったと気づいたときの、がっかりした気持ちと、でも前に進みたくなるわくわくする気持ち。

「一年や二年、人生で数えれば大した月日じゃない。人にはそういう時期があってもいいさ」
旅に出ることを伝えたとき、父親のような存在であるヒロさんから、絢子に告げられた言葉です。
自分のことを理解してくれる人がいる場所を離れるのは、簡単なことではないです。一年、二年という時間は、過去になってしまえば短い時間だけど、真っ白な未来を目の前にしての一年、二年という時間は、全然違います。でも、今の絢子にとって一番身近で、大切な存在であるヒロさんが言う言葉だから、素直に頷くことができたんだと思います。
この本を読んだとき、今一緒に生活しているシェアメイトから、現在に至るまでのストーリーを聞いて、いろんな生き方があることを改めて感じていた私も、このヒロさんの言葉に救われました。私には、周りの人と比較して「何か結果を出したい」「この一、二年が勝負」と焦る気持ちが常にあります。その気持ちも大事だとは思うけど、私のゴールは二年後ではない。もっとずっと歳を重ねたときに「豊かな人生だった」と思える生き方がしたい。自分の根幹にある思いに気づくことができました。
この言葉を胸に、絢子と一緒に旅を続けていこうと思います。

最後に

純喫茶トルンカを中心に、それぞれの人物の生活が重なり合って、物語が進んでいく様子がとても素敵で、温かみがあって、本当に実在してほしいと思ってしまいました。それぞれ抱えているものがあることを理解しながら、決して踏み込みすぎることなく、でも一番の味方だよ、と言える常連客同士の関係性に救われました。
マスターが淹れるコーヒーを、いつか味わってみたいです。


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