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上場企業の役員報酬制度設計で押さえるべきポイント ~中堅・中小規模の企業だからこそ考えたい、あなたの企業の役員報酬制度を再点検~

<第二部>基本報酬を仕組み化するポイント


前回の記事はこちら↓

前回は、役員報酬制度を設計するにあたっての基本的な考え方を紹介しました。
今回からはいよいよ設計の実務の部分で気を付けるべきポイントを考えていきたいと思います。

皆さんの会社の基本報酬はどのように決まっていますか?

さて、皆さんの会社の役員報酬はどのような要素で構成されているでしょうか?
社内資料でもいいですし、有価証券報告書などIR資料でも確認できると思います。
おおよそ、「基本報酬(固定報酬)」、「短期インセンティブ」、「長期インセンティブ(株式報酬)」のいずれかを組み合わせているのではないでしょうか?
最近は特に、長期インセンティブ、いわゆる株式報酬の導入が進んでいるように思います。
 
そうはいってもほとんどの国内上場企業では、役員報酬構成の多くの割合を占めるのは「基本報酬」ではないでしょうか?
ここで、「基本報酬」とは一体何なのか、その位置づけや効果について一度おさらいしておきましょう。
 
<基本報酬とは?>
・安定的な生活基盤の提供
役員が生活基盤を安定させ、業務に専念できるようにする。
短期的な業績変動に左右されない報酬を提供することで、役員の長期的な視点を支援。
・会社への基本的な貢献に対する評価
役員としての基本的な責任や貢献に報いるための報酬。
企業の業績とは無関係に、役員の知識や経験、日々の職務遂行に対する対価として支給。
・人材確保と維持
有能な人材を確保し、長期にわたり会社に留まってもらうための安定した報酬としての位置づけ。
 
以上の通り基本報酬とは、企業の短期的なパフォーマンスに左右されない安定した報酬として位置づけられ、役員報酬の基盤となる重要な要素なのです。
本日は、この基本報酬にスポットを当てて、基本報酬を設計していくときのポイントを見ていきます。
 

ポイント①目指すべき報酬総額水準と報酬構成割合から基本報酬額を導き出す

<自社の報酬総額水準は?>
基本報酬の設計にあたっては、報酬総額水準から逆算して設計することをお勧めします。
基本報酬回と言いながら、いきなり報酬総額の話になりますが、「結局ウチの会社の役員は年間でいくらもらえるのか?」ということをまずは明らかにしておきましょう。
その際、有効な検討材料になるのが競合他社や業界水準などです。この市場水準比較については第1回でもお話ししているのでぜひ参考にしてみてください。
 
<自社の報酬構成割合は?>
次に「基本報酬だけなのか?それとも株式報酬なども支給すべきなのか?」といった報酬構成(割合)について検討してみましょう。
こちらも競合他社動向を知っておくことは必須ですが、それよりも大事なことは「基本報酬だけでなく短期・長期インセンティブを支給することで会社にとって何かいいことはあるのか?」といった支給目的を社内ですり合わせておくことです。
もう少しかみ砕いていうと、「インセンティブ導入が企業の持続的な成長や企業価値向上に寄与するのか?」について明確に説明できればOK、ということです。
(結果として役員報酬=基本報酬、ということになるケースもあると思います)
 
<報酬総額水準×報酬構成割合>
以上を踏まえ、目指すべき報酬総額水準と報酬構成割合をクロスさせると、基本報酬額が導き出されます(インセンティブを設定する場合はインセンティブ割合も導き出されます)。
この基本報酬をもとに役職ごとに基本報酬を仕組み化していきましょう。
(例えば、取締役=1,300万円、常務取締役=1,500万円、専務取締役=1,800万円、代表取締役社長=2,500万円 など)

ポイント②固定報酬はシングルレート?レンジレート?

基本報酬を考える際、もう一つ大事なポイントがあります。
それは基本報酬が役職と厳格に連動させるのかどうか、ということです。
下図のように、「シングルレート」か「レンジレート」、2つの設計手法が考えられます。

ここで論点となるのが、「基本報酬は役職と連動させるのか」ということです。
 
基本的に役員層は、委任契約の立場で職務との結びつきが強いことから、いわゆる「ジョブ型」的な発想に基づき、シングルレートで設計されることが多い印象です。
一方で上記役員の本来の立場を踏まえつつも、「同一職務の中での能力成長も評価していきたい」といった観点からレンジレートで設計するケースもあります。
 
シングルレートがオーソドックスかと思いますが、「役員個々の評価もしたい!」ということであればレンジレートも検討してみるといいでしょう。
(全社的な財務指標や株式指標は短期・長期インセンティブに反映させる傾向にあります。こちらも後日お話しします)

最後に

今回は、役員報酬のうち、基本報酬についてその設計ポイントをお話ししました。
基本報酬は、役員報酬の根幹になるものですが、「仕組み」としてとらえられにくい部分かと思います。
しかし、ここまでで述べたように、基本報酬も機械的に決まるものではなく、そこに会社としての「想い」を込められる余地は十分にあります。
ぜひ一度、自社の基本報酬の位置付けや目的などを確認してみて、必要があれば言語化できるよう整理してみることをお勧めします。
次回以降はインセンティブについてお話ししていく予定です。
次回もお楽しみに!

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