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YADORUのお話

2019年2月23日(⼟)から3月3日(⽇)までの9日間、六本木を中心にMedia Ambition Tokyo [MAT] というイベントが開催されます。WOWはそのメイン会場となる六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで、東北地方の伝統工芸こけしをテーマにしたインスタレーション作品「YADORU」を展示しています。

MEDIA AMBITION TOKYO
http://mediaambitiontokyo.jp/
日程: 2019年2月23日(土)- 3月3日(日)
場所: 六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー
時間: 10:00 – 22:00

昨年展示したときの映像はこちら。こんな作品です。

YADORU

YADORU(やどる)は、東北に古くから伝わる郷土玩具をテーマに、工房見学を始めとしたフィールドワークを通して伝統を学び、そこに自分たちのもつ表現技術と解釈を加えて作り上げた実験的な連作の一つです。

現代的な表現技術を使って伝統表現を少し違った角度から見つめ直す試み。無彩色のこけし70本あまりをキャンバスにした映像プロジェクション作品です。

MATでは、山形ビエンナーレ2018出展の際に撮影された山形県の人々130名余りの顔が映し出される「鑑賞型」と、来場者が顔を撮影することで作品に参加できる「インタラクション型」の2種類を展示しています。

開幕から数日が経ち、「面白い」「怖い」「キモい」「その発想はなかった」などいろいろな感想をいただいています。キモいはもう一生分いただいたので、残りの人生ではもうキモいと言われずに生きていきたいものです。

モチーフ:こけし

さて、なぜこけし?というのをよく聞かれますが、直接的な理由は制作のきっかけが山形県でのWOWのオリジナル展だったからです。BAKERUの制作から伝統文化の精神性に着目していたので、山形の土地に根ざしたものは何だろうと議論して出てきたのが「伝統工芸」や「郷土玩具」でした。

東北に育つと、こけしはおばあちゃんの家の箪笥の上やガラス戸の飾り棚に鎮座している鑑賞品、という印象です。僕が子供の頃は、なんだこれは、不気味だな、と思ったりしたけれど、時が経つともはや風景の一部として気にとめない存在になっていました。そんなこけしだけど、調べていくとなかなか奥深いことがわかってくる。

こけしは東北の湯治場を中心に発達しました。木器などを手がける木地職人が製作していたもので、元々は子どもの手遊び人形として親しまれていました。さらにお土産物として「五穀豊壌」や「子供の成長」などの願いがこめられて、売られ、贈られ、広まっていった。昔はもっと人の生活の近くにあったことが見えてきました。人に見立てる依り代として、また祈りをこめた土産物として、人々はこけしにさまざまな想いをやどしてきました。「YADORU(宿る)」という作品名にはその2つの意味が込められています。

その場では直感的に楽しいけどちょっとクセがあって印象に残る。家に帰ってこけしを目にした際に、あ、あれだ、と身の回りにある奥深いものに目を向けるきっかけになるような作品を目指しました。

フィールドワーク

BAKERUのときと同様、作品が伝統のモチーフを借りてきただけ、というのはとても避けたい。今回も制作するにあたり、WOW仙台チームで郷土玩具を手がける職人さん(工人という)の元を訪れたり、関係する地をめぐるフィールドワークを行いました。こけしに関しては乾燥した木の素材からひとつのこけしが完成する一連の過程を見学させていただきました。これは本当にすごい。

協力いただいたのは蔵王系こけしの工人、梅木秀一さんと梅木直美さん。お話を聞いて面白かったのは直美さんの伝統の考え方。99.5%は伝統を重んじる。残りの0.5%を別のラインとして新しい挑戦にあてて、それが良いようであれば自分が受け継いできた伝統のラインに組み込むことを検討する。直美さんは「ねここけし」や「天使こけし」などの新しいこけしも発表されています。「伝統」とひとくくりにすると発展性が失われてしまうのでは、と疑問に思っていたのですが、伝統の変化をポジティブに見ることができた機会でした。

(郷土玩具を奉納する山奥の神社に向かうの図。映像の会社の、はず)


ちなみに、このときの「木がろくろで削れていく様が目茶苦茶気持ちいい」という体験はROKUROという作品になって様々な場所で展示しています。

2つのYADORU

そんなこんなで誕生したYADORUは、2017年12月に山形県東根市のまなびあテラスでのWOW展示会「POPPO」で初公開されました。次の山形ビエンナーレ2018では規模を大幅に拡大し、70体のこけしを展示(前回の3倍)。事前に行った撮影会、「こけしになる人、集合」に参加した山形市民約130名の顔がこけしに映し出されることになりました。これが今回の「鑑賞版」。

今回のMATではこの山形ビエンナーレ版がフルサイズで展示されます。土地のものに土地の人が宿るという、ひとつの完成形です。

同時に、会場に来た人が楽しめる「インタラクション版」も展示します。その場で撮影した自分の顔がこけしに入り込む体験、ぜひ試してみてくださいな。

YADORU Credit:
Director:佐藤宏樹
CG Designer:田中健二
Programmer:吉村篤
Creative Director:工藤薫
Producer:稲垣拓也、宮本武典
Sound Design:長崎智宏
Cooperation:東北芸術工科大学、梅木修一・直美(蔵王系こけし工人)

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