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今をそっと手放してみたくて


ふと、誰も私のことを知らないところで暮らしてみたい、と思うことがある。

特別今に不満があるわけでもなく、ありがたいことに素敵な人たちに囲まれて幸せな毎日が送れていると思うのに、だ。

職業を変えるとか、住む場所を変えるとか、そういう話ではなくて、なんというか、もっとこう、別の誰かになって生きてみたいのだ。



歳を重ねることに、「わたし」というアイデンティティを司る要素が増えているなぁと感じる。

それは、出身であり、住まいであり、年齢、性別、学歴も職業も、もしかしたら性格も当てはまるかもしれない。

自分が確立されていくのは、他の誰でもないオンリーワンになれるから、いいことだと思う。

でも、なんだかそんな積み重ねが時折、息苦しく感じることがある。

私は何者でもないのにな、と思いつつ、誰かに私を紹介するたびに、つらつらと自分の口から発せられる言葉によって、呼吸を忘れそうになるような感覚。


そんな、いつのまにかできあがった肩書きとやらを、いったん全部手放してみたいのだ。

何度生まれ変わりたいと願っても、叶うことはないと知っているから。


そして、そう思う理由にもまた、私は心当たりがある。きっと、私は自分の持つなにかで誰かに判断されたくないのだ。


初対面で相手にも何かしらの情報を求めるくせに都合のいいやつめ、と思いながらも、

知らない土地の道端で話しかけられて会話が成立してしまうように、相手のことは何も知らないけれど、気軽に話せるような、匿名対匿名みたいな関係性が好きだったりする。


だからこうやって接してほしい、なんてことは相手には求めていないのだけれど、 

もしも1つの身体で2人分の人生が歩める世界線があったら体験してみたいな、なんて。


そしてまた、ちゃんと生き延びたいと思う気持ちはあるから、未来に絶望はしてないけれど、我が人生ながら未来が少しでも見えてしまうと、つまらないなと感じてしまうので。

簡潔にいえば刺激が足りてないのかもな、と思ったり。

もうちょっと吊り橋の上を渡って歩き続けたいと思っていた20代、得てきたものだけじゃ満足できてないんだろうな、わがままながらにも。


それでも、この私が「わたし」を手放したいと思う瞬間は、今までも私を訪ねてきてはふっと消えてなくなり、また現れる。

まるで透明のマントをかぶっているような気持ち、台風とかで飛ばされないかな。


大人になって知識と知恵を手に入れて、つい頭でっかちになって物事を考えてしまうけれど、

なんのしがらみもない人と、街中で出会っても変わらず接することのできる幼少期のような、純粋な気持ちを忘れずに生きていきたいな。


思考が捗る夜。秋の涼しさを感じながら、雨音をバックミュージックに。意味もなく、ぱっと浮かんだ私の頭の中を残しておきたくて。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。いい夜を、そしていい明日を。

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