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2024年7月20日

銭湯上がりに脱衣所でファイブミニを飲んでいたら、天井窓の曇りガラスが突然ぴかっと光る。さっきまで気持ちの良い夏空だったのにまさか。銭湯から出ると、空がいつの間にか真っ黒な雲で覆われていた。

銭湯から家に戻る道の様子がいつもと違う。大量の人が同じ方向に歩いている。河川敷から反対方向へ。今日予定されていた花火大会が中止になった。浴衣を着た若者たちや、買い込んだ飲み物でぱんぱんのスーパーの袋を抱えた家族たちが足早に来た道を戻っている。今住んでいる家は、夏の風物詩と言われる大きな花火大会の会場の目と鼻の先にある。

6年前に東京に来た。そのときはじめて見た東京の花火大会だった。あまりにも人が多くて、会場である河川敷付近をただひたすら歩いた。歩きながら、頭の上で爆発する花火を見上げ続けた。空を埋め尽くすおびただしい量の火花に「これが東京か…」と圧倒されたのだった。

そのときは東京で出会った台湾の友人と一緒だった。私にできたはじめての台湾の友人だった。そして、彼ははじめて来る東京だった。そのとき見た花火がどんなものだったかはあまり思い出せない。それなのに、空に打ちあがった光が不規則なリズムでぴかっ、ぴかっと彼の顔を照らしていた情景だけは覚えている。

今の家から6年ぶりに見れる花火をどこか期待していたが叶わなかった。ただ、ちょっと前に6年ぶりに彼とふと再会した。自分でもびっくりするぐらいうれしかった。私を覚えてくれている人が世界のどこかにいるということが。あのときから6年という時間が流れて、彼と一緒に歩いた花火会場の近くに住むことになるなんて、まだ東京にいるなんて予想もしていなかった。彼に再会するなんてもっと考えていなかった。人生は本当に不思議。

彼との再会に限らず、あちこちにいるいろんな人たちからいろんなものが届いた一週間だった。かわいい缶に入ったクッキー、透明感あふれるポストカード、10年ぶりのLINEメッセージ、ジャンボピーマン、すもものサマーエンジェル、真珠のネックレス、昔の私について語る手紙、アスパラガスのマグネット、愛のこもったお叱り電話…。

毎日一緒に奮闘している人たち、仲良くなってみたかった人たち、久しぶりに会えた人たち、物理的には会えないけれど連絡をくれる人たちが代わる代わる私の日常にやってくる。そして、彼/彼女らは「やってらんない、つまんない」と言い続ける私のしょうもない泣き言をひたすら聞いてくれたり、喝をいれてくれたり、そうだよねと一緒に飲んでくれたりした。そんな人たちが、私のそばに実はずっといたのだとようやく気付く。私の今を共有してくれる人たちと私ですら忘れているあの頃の私を覚えている人たちがいる。本当にありがたい。涙がほろりと流れそう。流れてはいない。

ということで、そろそろ文句はやめよう、夏。私の大好きな季節が来た。

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