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ビジネス心理学大全

■著書
ビジネス心理学大全
著者:榎本 博明

■はじめに

採用でも教育でも人の領域で仕事をするには心理学は切っても切り離せない分野です。今までも心理学系の著書は読んだりしてきましたが、現場を思い浮かべ、本書を読んでみました。

できる人をさらに活かすためには?


上司から重要な任務を任されたり、新たな仕事を任されたとき、
「これはチャンスだ!」と飛びつく人と、「まだ自分には自信がない」と躊躇する人がいます。
チャンスととらえて思い切ってチャレンジする人もいる一方で、まだチャレンジする自信がないと躊躇する人の違いはどこにあるのでしょうか?

ここで重要となるのが、人間を動かす動機を2つに分けて考えることです。何かにチャレンジしようかどうか迷う際に、心の中では2つの同期のせめぎ合いが生じています。

心理学のアトキンソンは、一般にモチベーションというときに想定されている成功追及動機に対して、失敗回避動機というものを想定し、この2つの力関係によって課題遂行への姿勢が決まると考えました。
何かする際に、「うまくいったらどんなに素晴らしいだろう」という思いと同時に、「もし失敗したらどうしよう」といった思いが脳裏をかすめます。前者は成功追及動機による心の動き、後者は失敗回避動機による心の動きと言えます。

成功追及動機=成功を追求しようという動機
失敗回避動機=失敗を回避しようという動機

できるなら思い切ってチャレンジして成功を手に入れたいと思うものの、できたら失敗は避けたいとも思います。そのバランスが人によって違ってきます。どちらがより強いかによって、積極的にチャレンジしようとするか、チェレンジするのを躊躇するかが決まるのです。

新たな仕事や重要な仕事を任されることを躊躇する人物は、成功追及動機より失敗回避動機のほうが強いタイプと言えます。一方、そのような人物を見て物足りなく思ったり苛立ったりする人物は、失敗回避動機より成功追及動機のほうが強いタイプと言えます。

成功追及動機のほうが強い人と失敗回避動機のほうが強い人では、モチベーションの心理メカニズムが正反対であるとことが、心理学の実験によって実証されているそうです。どのような条件の課題を好むかが、タイプによって異なるのです。

1)成功追及動機のほうが強い人は、五分五分の勝負に燃える

成功追及動機のほうが強い人は、成功確率が0か1に近い課題より、成功確率が0.5、つまりうまくいくかいかないかが五分五分の課題に対してモチベーションが高まります。

つまり、失敗をあまり恐れないタイプは、うまくいくかどうかわからないが、うまくやれば達成できるかもしれないというときにチャレンジ精神が刺激され、モチベーションが高まります。だれでもできそうな課題では面白くないため、モチベーションは上がりません。絶対にできそうにない課題では、当然ながらモチベーションは上がりません。

2)失敗回避動機のほうが強い人は、できそうだと思えばやる気になる

一方、失敗回避動機のほうが強い人の場合は、成功確率が0か1に近いときにモチベーションが高まります。
つまり、だれでもできそうな課題、絶対にうまくできると思える課題のときは、失敗への不安が喚起されないため、モチベーションが高まります。また、絶対にできそうにない課題では、どうせみんなもできないのだから、たとえ自分ができなくても大丈夫と思うことで、失敗への恐怖が和らぐため、モチベーションを維持できるのです。

それに対して、頑張ればできるかもしれないけど、確実にできるとは限らない課題の場合、「失敗したらどうしよう」といった不安が高まり、逃げ出したい気分になるため、モチベーションは高まりません。

<タイプ別の課題の与え方>

成功追及動機のほうが強い人は、やりがいを求める
→難しい課題を与える


失敗回避動機のほうが強い人は、安心を求める
→できそうな課題を与えつつ、サポート体制を整え安心させる

□まずやること①

社員はどちらのタイプかを知る。
自分はどちらかをいうと、失敗回避動機のほうが強いタイプだと思う。なので、おそらく接し方や課題の与え方が、「できそうな課題を与える」という傾向になるだろう。しかし、成功追及動機のほうが強い人の場合は、それではモチベーションは上がらない。なのでまず、誰がどのタイプかを知る必要がある。採用や入社後面談でここを探ってみることにします。

お母さんマネジメントはなぜ生まれるのか?


欧米と日本では、学校の成績評価の仕方をみても、職場の業績評価の仕方をみても、厳しさが全く違うと言われます。たしかに、グローバル化といわれ、欧米式があらゆる面で取り入れられていますが、成績評価に関しては、日本ではまだまだ甘い現状です。どんな違いがあるのでしょうか。

欧米流の成果主義の背景には父性原理が、日本流の努力主義や平等主義の背景には母性原理が機能していると言えます。

欧米では、採用したけれど期待するような能力がなかったとなればすぐにクビにされますし、雇われる側もそれは仕方のないこととして受け入れます。でも、日本だとそのようなことがあれば、「かわいそうだ」「非人間的な扱いだ」といってすぐに同情の声が上がり、クビを切った側が非難にさらされるでしょう。

努力主義が信奉されるのも、「結果がすべてではない。努力したという姿勢は評価されるべきである」といった発想があるかです。ゆえに、頑張ったものの成果を出すことのできなかった人を切り捨てることに抵抗があい、そのようなことをする組織は「非情だ」「冷たすぎる」と批判されることになりがちです。

なぜ日本と欧米では、このような違いがあるのでしょうか。そこには父性原理と母性原理があります。

母性原理は、「包含する」機能によって示され、父性原理は「切断する」機能によって示されるといいます。

母性原理
すべてのものを良きにつけ悪しきにつけ包み込み、すべての子どもを平等に扱う。このような母性原理には、温かく包みこむことで心の支えになる肯定的な面と同時に、過保護になり成長を妨げるという否定的な面もある

父性原理
すべてのものを切断し分類し、子どもをその能力や個性に応じて類別するとして、両者を対比させている。強い人物を育て上げていくという肯定的な面と同時に、鍛えようとする力が強すぎて気持ちを萎えさせ、ときに諦めの境地に陥らせてしまうという否定的な面もある

日本では、教育制度をみても、ますます母性原理が強まっています。
中学や高校では定期試験の成績表を公表しなくなったり、推薦入試を増やしたり、大学でも成績や出席状況を親に知らせ、親による管理を促したりするようになっています。

このように生育環境か厳しさが取り除かれることで、心が鍛えられず、ストレス耐性が身につかないまま社会に送りこまれます。

過保護の育てられ、心が鍛えられず、心が折れやすい若者が生み出されているとしたら、かなり危機的な状況と言わねばなりません。

お母さんマネジメントという言葉が会社のなかであがることがありますが、
そもそも日本は母性原理が強く、無意識にそうなりがちになるということを認識しなければなりません。

また、今後新人が増えるということは、母性原理に包まれて育ってきた人が増えるため、より過保護になってしまう危険性もあります。

強い人物を育てていくためには、意識的に父性原理を使う必要があるでしょう。

□まずやること②

役職者はどっちの原理が強いのか知る
マネージャーなど役職者により異なるので、どちらの原理が強いのかを知る。例えば、父性原理が強いマネジメントを受けているメンバーは、母性原理が必要になるかもしれないので、面談時とかそっちで接してみるなど。

笑いが取れる=コミュ力があるではない


子どもや学生の頃はコミュ力といえば、笑いと取る能力と言われます。しかし、学生時代と仕事についてからとでは、求められるコミュニケーション力が違いというのは、就職した多くの人たちが実感しているところです。

就職活動で、コミュニケーション力に自信があると言っていた人が、社会にでて、まったく通用しなく自信をなくしているのをみたこともあります。

ひとくちにコミュニケーション力といっても、そこからイメージするものはさまざまです。そこで、コミュニケーション力をどのようにとらえたらよいのか、どのような能力を磨く必要があるのかについて知る必要があります。

<コミュニケーションの6因子>
コミュニケーション力を分析する際、つぎの6つの要素に分けてみるとわかりやすいです。

1.社交性
慣れない相手に対しても気後れせずに、場にふさわしい会話ができる性質
2.自己開示性
自己防衛的に身構えず、率直に自分をさらけ出す性質
3.自己主張力
自分の考えを理論整然と表現し、相手に説得的に働きかけることができる性質
4.感情表現力
自分の気持ちをうまく表現し、相手の気持ちに訴えることができる性質
5.他者理解力
周囲の人に関心をもち、相手の気持ちや考えを汲み取ることができる性質
6.傾聴性
相手の言葉にじっくり耳を傾け、相手の自己開示を引き出す性質

この6因子からみたコミュニケーション力が高い人ほど、肯定的な出来事、とくに人間関係面で肯定的な出来事をよく経験しているそうです。

コミュニケーション力はけっして笑いを取る能力ではなく、非社交的な人でも、口ベタな人でも、総合的なコミュニケーション力を高めることは十分可能です。

□まずやること③

面接でコミュニケーション力をみるときに、今までは感覚でしたが、この6因子にそって評価をしてみる。
一見、口下手でも総合力の高い人のほうがビジネス的なコミュニケーション力は高く、クライアントワークもうまいかもしれない。また、口上手な人に惑わされないようにする。


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