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ドラクエ留学、ひとつき。(社会編②)

前回は、MMORPG『ドラゴンクエストX』(ドラクエ10)の特徴的なシステム「サポートなかま」について、過去のがんばりを活かして利益を得られる「印税制度」のようなものと考えられる、という話をしました。今回はサポートなかまの別の側面、その背景について考えて、「留学ひとつき」の報告をひと区切りとします。

ひとの役に立ちたいという気持ち

まだオンラインゲームをプレイしていなければ、誰もが「お金を払って傭兵を雇い、自らの目的を遂行する」シーンを想像することでしょう。あるいは、どちらかというと「自分が傭兵となり、誰かを助けることでお礼をもらう」ことをイメージするかもしれません。ゲームっぽいものもそうでない古典のファンタジー系小説でも、そういう展開はいくらでもあります。

オフラインのRPGだって、いわゆる「おつかい」系のクエストは自分が傭兵として働いているようなものだったり、ズバリ傭兵という設定だったり、あるいは自分が傭兵を雇う展開はいくらでもあります。

ドクラエ10でも、そうでなくても。オンラインゲームをプレイする仲間同士で、誰かを助ける活動をして(その世界で)生きていきたいと考える人は少なくありません。NPCを相手に「おつかい」をするのではなく、本物のひとのためになることをしたい、という思いをようやく実現できるはずのものがオンラインゲーム、MMORPGだったとも言えます。

でも、オンラインゲームではこの傭兵稼業がうまく実現されませんでした。特に日本のコミュニティでは。

日本人は傭兵制度を許さない?

オンラインゲームで傭兵制度、傭兵稼業がうまくいかなり理由は複数あります。

時代による変化もありますが、その第一の理由は「嫌儲」です。ひとの役に立ちたいという気持ちが本心なら「カネを取るな、無料でやれ」という圧力。無言の圧力ではなく、匿名掲示板などいろいろな場面で実際に言及されてきたことです。過剰に清貧であることを求め、ヒーローであることを強要する考え。でも実際には、次の第二の理由も「併発」していることがうかがえます。

その第二の理由とは、「後続潰し」。強い先行者に助けられて、後続プレイヤーが「楽をすること」を徹底して嫌う人たちがいるのです。弱い者は弱いまま、「上へあがってくるな」と。「より弱き者」が存在しないと、自分が最底辺になってしまうという恐れもあるかもしれません。このあたりは現実における弱者救済への反発、階級の固定化の動きそのままです。

例えゲームの世界のなかでも、一度自分が有利になれば追いつかれたくない、他者の足を引っ張ることで地位を維持したい、チープな言葉で言えば「既得権益」のようなものを守りたいという気持ちが芽生えます。むしろ「しょせんゲームだから」こそ、そうした意見を恥ずかしげもなく述べやすく、「成り上がり者たち」の本心が表れやすいのです。

そうしたある種の「貴族」のような人たちにとって、傭兵制度は害悪です。「皆が同じように強くなる必要はない」「不便を楽しめ」「いろんな人がいるのが多様性だ」などと、傭兵制度に限らず平準化を図る意見などを批判します。現実の政治でも、いわゆる「風」が吹いたときに"なり手不足"を補うように議員になった医者・実業家などが"弱者弾圧"ともいえる言動を行うことは珍しくありませんが、ゲームの世界でも"一段高いポジション"に上がってインフルエンサー的な発言力を得た人たちによって同じことが起きるのです。

しかし、後続プレイヤーが先行者に追いつくことが難しいオンラインゲームは閉鎖的で息苦しく、過疎化も進みます。現実の社会に置き換えれば「少子化」が進むのと同じです。オンラインゲームの開発者・運営者のほとんどはプレイヤーの一部に貴族化してほしいとも、後続プレイヤーたちに辞めてほしいとも思っていませんから、「貴族的思想」には手を焼いていることが、さまざまな場面でうかがえます。

例えばドラクエシリーズの生みの親である堀井雄二さんは、オンラインゲーム特有の「ネトゲ廃人」問題について「実社会とゲームの世界が反比例している」と揶揄する発言をしています。また、現在は『ファイナルファンタジーXIV』(FFXIV)のプロデューサー兼ディレクターを務める吉田直樹さんも、FFXIVでは先行者の地位が固定化される仕様の導入を長く拒んでおり、「復帰しやすいゲームにする」といった後続プレイヤーを大切にする趣旨の発言をしてきました。吉田直樹さんはもともとドラクエ10のチーフプランナーを務めていたこともあり、ドラクエ10が「貴族意識問題」に対して真剣に取り組んできたことがわかります。

繰り返しになりますが、この貴族意識問題(帰属意識ではないです)は根源的には現実社会とまったく同じものです。一部の成り上がり者が、地位を固定化して弱者を弱者のままにしようとする動きは、日本の税制において加速してきましたし、もう少し目に見えるところでは学費の無償化や補助の動きへの反発として制服の高額化が行なわれたりもしています。また、以前から繰り返されている、弱者支援に対する公金投入を問題視する動きも同様です。

でも、「誰かが不幸な目にあってはならない」「人が死んだり、去って行くことを阻止しなければいけない」という思いは、地球上のすべての国家や政体よりも、オンラインゲームの開発者・運営者の方が遥かに上です。「そりゃあ彼らは月額課金が減ると困るから」と思うかもしれませんが、それなら世界中の政権政党が得る報酬や助成金も、国民の幸福度などの増減に応じて乗算すべきでしょうね。

中世から近代・資本主義へ?

ドラクエ10の「サポートなかま」システムは、そんな「うまくいかない傭兵制度」に対するひとつの「解」になっていることにこそ重要な意味があると考えられます。高いレベルのサポート仲間を雇うときには代金が必要となることで、「傭兵」というサービスを具現化し、システムとしてのお墨付きを与えているからです。

コミュニティにおけるプレイヤー同士の"取引"をシステムによってサポートすることは難しいのですが、ドラクエ10では「自分が育てたキャラクターのデータを貸す」という"間接化"によって疑似的・限定的に傭兵制度を実現したことはもっと注目されても良いものだと思います。この発想は、オンラインゲームに限らず、さまざまなことに応用できる可能性を秘めています。

現実の歴史では、人々の地位が固定化されていた中世・封建社会が民主化・資本主義の台頭によって変化してきましたが、同じようなことが(一部とはいえ)オンラインゲームの社会でも起きているのはとても興味深いことです。ただ近年では、民主化・資本主義化したいわゆる先進国が文化・経済・教育などで相対的に退行気味なのはみなさんご承知のとおりです。そして中国のように「自由(度がある)経済を、権威主義国家が統制するのが強い」という面も見えてきたことから、強い権威を求める動きも見え隠れします。

ただ、その「自由(度がある)経済を、権威が統制する」のって、オンラインゲームの経済に近いんですよね。現実の社会も、オンラインゲームも、今後どう変化していくのかはよくわかりませんが、それぞれの社会において庶民として生き、その動きを見ていきたいと思います。

って、FFXIVも含め他のMMORPGもプレイしなきゃイカンのですかね。もうFF11とドラクエ10だけで手一杯で、仕事している暇もないのですが。

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