腸_柔毛

リーキーガット症候群解消法 第一回 ゆるんだ腸壁=リーキーガットを知っていますか?

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ゆるんだ腸壁が病気をつくる

リーキーガット症候群解消法

第一回 ゆるんだ腸壁=リーキーガットを知っていますか?

文●体質研究所主宰 松原秀樹
構成●近藤友暁

皆さんは、“ゆるんだ腸壁”と聞いて、どんなことをイメージしますか?

食品や飲料の中には、「たくさん摂るとお腹がゆるくなることがあります」と表示されているものがあります。オリゴ糖や難消化性デキストリンを含有した食品です。そういう表示を見たことがある人は、「“ゆるんだ腸壁”とは、下痢しやすいということ?」と思われたかもしれませんが、違います。

“ゆるんだ腸壁”とは、栄養吸収細胞どうしの密着結合がゆるんだ状態のことです。この状態を、俗に「リーキーガット」と呼びます。リーキー(leaky)は「漏れやすい」、ガット(gut)は消化管のことです。

この連載では、体質改善コンサルタントとしての私の経験と、国内外の文献を元に、ゆるんだ腸壁=リーキーガットについて、わかりやすく解説していきたいと思います。

第1回は、リーキーガットの概要と、リーキーガットの原因の代表である小麦のタンパク質成分「グルテン」について説明していきます。


アレルギーからガンまで関わる
「リーキーガット」とは?

私たちの腸壁は、絨毯の毛のような「絨毛」で覆われています。絨毛の表面には「微絨毛」と呼ばれる細かい毛がたくさん並んでいます。その微絨毛の表面には「栄養吸収細胞」がビッシリと並んで、食べ物からの栄養を待ち構えています。

通常、栄養吸収細胞どうしは固く密着結合して、食べ物が完全に消化されるまでは吸収されないようになっています。タンパク質や病原体などの侵入を防ぐためです。

「リーキーガット」とはつまり、栄養吸収細胞どうしの密着結合がゆるんで、腸壁の透過性が高まった状態であると言えます。

腸管の壁にある絨毛のイメージ図。絨毛1つひとつには、さらに微細な微絨毛で覆われていて、栄養や水分を吸収するための表面積を広げている。

腸壁の透過性が高まると、どんな問題があるのでしょうか? それは、本来、腸で吸収されるべきではない成分が、吸収されやすくなってしまう点にあります。

たとえばタンパク質は、アミノ酸に分解されるまで吸収されないようになっています。腸から吸収されたアミノ酸が、肝臓で遺伝子に基づいて並べ替えられて、「自己タンパク」が作られます。だから牛肉や豚肉をいくら食べても、身体の一部が牛や豚になることはなく、摂取したタンパク質は自分の身体の一部として再構築されるのです。

ところが、「リーキーガット」になった状態では、アミノ酸になる前に吸収されてしまいます。すると、それは自分のタンパク質ではないので免疫系がすぐに排除しようとします。このとき、軽度の炎症が腸でおきます。軽度だからといって弊害がないわけではありません。軽度の炎症であっても、慢性的におきていれば、身体に不都合なことがおきます。

タンパク質が吸収されるまでに分解されるイメージ図。通常の経過ではアミノ酸まで分解されたのち、腸から吸収され、肝臓で自己タンパクとして合成される。しかし、リーキーガットになると、分解が不十分なまま吸収され、これが異物として認識されて抗体が産生されるため、アレルギー体質になる。


実は慢性炎症が、肥満や糖尿病をはじめ、アレルギーやアトピー、胃腸の慢性不調、腰痛、偏頭痛、PMS、生理痛、ガン、うつ病にいたるまで、多くの生活習慣病や老化の原因になっていることがわかっています。病院に通ってもなかなか治らない慢性症状で悩んでいる人は、実は体内でおきている慢性炎症が原因である可能性が大きいと考えられます。

慢性炎症がおきやすいのは、

歯茎(歯周病)
腸(リーキーガット)
内臓脂肪


の3箇所です。このうち、このWeb連載では、腸でおきる「リーキーガット」にスポットをあてて、リーキーガットと慢性症状との関連性を説明していきたいと考えています。


なぜ日本ではあまりしられていないのか?
日本と海外の情報格差

リーキーガットに関しては日本ではあまり知られていませんが、海外ではどうなのでしょうか。

私の整体院に最近通ってくるようになったあるアメリカ人に聞いてみたところ、リーキーガットという言葉を知っていました。彼は、アメリカにいたときは不動産業をしていて、日本では英語を教えていますから、医学を専門に学んだ方ではありません。それでもリーキーガットという言葉を知っていたのです。

昨年、株式会社コサナが提供するラジオの健康番組で、薬剤師の堀美智子先生と対談させていただきました。その際にリーキーガットの代表的な原因が小麦に含まれるタンパク質「グルテン」であることをお話したところ、堀先生は次のようなコメントをされました。

「私の友人の一人が若いときからアレルギーがひどくて、アレルギーの薬を手放せないでいたのに、あるときアメリカに転勤することになったの。アメリカではグルテンフリーの食材が多く販売されているので、何が良いのかも知らずにグルテンフリーの食材を食べるようにしていたら、アレルギーが出なくなった。“自分はもうアレルギーが治ったんだ”と思っていたら、また日本に転勤になって、日本に戻ったらまたアレルギーになって、それでようやく“グルテンが原因だったんだ”と気づいた、と言っていました」


グルテンフリーの効用は、テニス界の王者となったノバク・ジョコビッチ選手によって広く知られるようになりました。ジョコビッチ選手は、頻繁におきる発作のために、実力がありながらなかなか試合で勝てずにいました。

試合中に喘息の発作をおこした様子をテレビで見ていた祖国セルビアの栄養学者が、食物アレルギーを疑って検査を薦めたところ、グルテン、チーズ、トマトのアレルギーであることが分かりました。そして、彼はこれらの食材を抜くことで試合中に発作をおこすことがなくなり、間もなくウィンブルドンで優勝したのです。

グルテンが原因でおきる病気に、セリアック病とグルテンアレルギーがあります。セリアックとは「腹腔の」という意味で、セリアック病は小腸に慢性的に炎症がおきる自己免疫疾患です。グルテンアレルギーは自己免疫疾患ではありませんが、症状はセリアック病とほとんど同じです。小腸の炎症のために栄養が十分に吸収できなくなり、慢性的に深刻な栄養失調になるため、全身に様々な疾患や成長障害がおきる病気です。

これらの病気に悩まされている人たちは、アメリカだけでもおよそ300万人、ヨーロッパ全体でも約300万人、世界中では1500万人もの患者がいると言われています。ところが治療法も薬もなく、対処法は食事からグルテンを抜くことしかありません。

小腸の慢性炎症に悩まされている人たちが世界には数多くいるため、原因や治療法を研究している医学者もたくさんいます。

またリーキーガットに関する本も多く出版されていて、アメリカのアマゾンで「リーキーガット」の本を検索すると380冊以上もヒットします。

アメリカには、リーキーガットになっているかどうかを調べる研究施設もあります。

腸壁の透過性を調べるもっとも一般的なテストは「ポリエチレン・グリコール(PEG)テスト」というもので、「ラクツロース/マンニトールテスト」とも呼ばれています。

ラクツロースもマンニトールも身体が代謝できない水溶性の糖で、マンニトールは吸収されますが、ラクツロースは健全な腸壁からは吸収されません。マンニトールとラクツロースの入った溶液を飲んで6時間以内に出た尿を調べることで、腸壁の透過性が正常か否かを見分けるというものです。正常ならば吸収されないはずのラクツロースが大量に尿から出ていれば、腸壁の透過性が高まっている、すなわちリーキーガットになっていると判断できます。


海外で食品に使用されるグルテンフリー表示。グルテンの含有量の基準に違いがある。日本では認証マークはないが、アレルゲンの表示に規定がある。

このように海外ではリーキーガットは、一般の人からプロのスポーツ選手にいたるまで多くの人たちの関心事になっています。そして、一般的な治療では治らない慢性的な症状の根本原因がリーキーガットにある、ということを多くの人たちが認知するようになっています。

ところが日本では、残念ながらまだ一般的ではありません。

国内に限らず世界中から発表された論文を読めば、多額の研究費をかけて専門家たちが多大な時間と労力を費やして分かった貴重な研究成果を知ることができます。しかし、英語で書かれていますし、専門知識がないと理解できないことが多いものです。

そこでこの連載では、科学者が実験によって確かめた結果を重視しながらも、専門知識がなくても理解できるようにご紹介していこうと思います。論文の情報を紹介する際には、参考文献として記載していきます。論文は、投稿者、論文のタイトル、掲載誌の順で記載されているのが一般的で、グーグルで論文のタイトルで検索すればすぐに見つけられますから、興味のある方はぜひ、原文に触れてみてください。

次回は、リーキーガットの原因成分の代表格である「グルテン」について、掘り下げて説明することにします。

〈第一回 了〉

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–Profile–

●松原秀樹(Hideki Matsubara)
アレルギー体質を改善するために、高校時代から様々な療法を試みる。48歳のとき自然免疫学応用食材で、40年間治らなかったアレルギー症状がわずか2ヶ月でほぼ消失した。さらに腸管免疫について調べていき、『リーキーガットが万病の根源』と知るに至る。

 合気術を活用した独自の施術を行なう傍ら、体質改善の食事指導、サプリメントやボディケア用品の開発も行なっている。

 体質研究所主宰。桜ヶ丘整体院院長。整体師。体質改善コンサルタント。米国ISNF認定サプリメントアドバイザー。合気道四段。

 著書に「7つの秘訣で膝痛解消!(仮)」「肩甲骨をゆるめる!」(BABジャパン)「アレルギーは、皮膚と腸のバリアを強化すれば治る」(あかつき身体文学舎)など。「腰痛解消!神の手を持つ17人」(現代書林)に掲載。

Web site:体質改善コンサルタントの体質研究所

(当院のご案内の他、体質改善や健康情報についてクイズ形式で学べる「体質改善検定Ⓡ」も掲載しております。)

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