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法律を守っていては生きていけない人たちもいる。たとえば、無認可の託児所。認可された託児所では扱えない事情の子供たちが、ここにやってくる。

「先生、家中ギンギラギンに飾ろうよ」
赤ちゃんから5歳児まで、18人の子供たちの歓声が聞こえる。
剛史と涼子夫婦は、私立の託児所をやっている。
二人の託児所は世間で言う無認可の託児所だ。
認可された託児所では扱えない事情の子供たちが、ここにやってくる。
たとえば、生まれて半年の赤ちゃんと3歳と5歳の子を連れて、夫婦が駆け込んできた。
「家業の不動産屋が倒産して・・・どこも預かってくれなくて困ってます」
この夫婦は、夜逃げ同然で、この町に越してきたようだ。
だから、役場への転居届けもまだだ。
このような事情の両親を持つ子供たちを認可されている託児所は、なかなか預かってくれない。
かと言って、放置しておいたら悲惨な現実が目に見えている。
もちろん、剛史と涼子の託児所にも認可を受けるようにと役所から何度も通達が来ている。
経営は苦しい、認可を受ければ補助金が受けられる。
でも、今預かっている子供たちの半分は、認可を受ければ引き受けることは難しい。
「俺たちみたいな人もいなくちゃね」
「そうね・・・」
そう励まし合う剛史と涼子も、子供の頃、この託児所の世話になった。
無事成長して、高校を卒業、普通に働いていた剛史が会社の人間関係に嫌気をさしていた頃だった。
パチンコ帰りの剛史は、夕闇の中に、ふと懐かしい明かりを見つけた。
恐る恐るのぞいてみると、子供たちが駆け回っていた。
そう、剛史はそこに昔の自分を見つけたのだ。
その頃、剛史と涼子の面倒を見てくれた先生は70歳を過ぎていた。
手の足らない分を剛史と同じ年の涼子がアルバイトに来て補っていた。
15年ぶりの再会、そして昔話に花が咲いた。
それからだ。
剛史が、
「パチンコの帰りだよ・・・」
と言いながら、両手に一杯のお菓子を持って来るようになったのは。
剛史と涼子が恋仲になり、結婚して、年老いた先生から、この託児所を引き継ぐのは、自然の成り行きだった。
「先生、雪が降ってきたよ・・・」
一番のいたずら坊主が叫んだ。
彼のお母さんはフィリピンから来た人で駅裏のスナックで働いている。
「どれどれ・・・」
と剛史が窓から外を見る。
それぞれ遊んでいた子供たちも窓の所に集まった。
「ワーイ、雪だ雪だ」
最後に、涼子が、この前来たばかりの赤ちゃんを抱きながらやってきた、
「ホワイトクリスマスね」
「ウーン」
20人の家族全員が頷いた。
 

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