僕は小中といじめられていた。しかし、なんとか中学も卒業し、高校へと進学した。今は、新しい高校生活を楽しいとすら感じている。なぜなら、地元を抜け出して、いじめっ子たちのいない高校に進学したからだ。家から遠いため電車通学ではあるが、あいつらから解放されたのだと思うと、それすら苦痛とは思わない。 周りはクソ真面目な奴ばかりでつまらないが、真面目すぎていじめられない。それでいい。いじめは心身の毒である。毎日いじめられていた僕は毒に蝕まれ、体も心もボロボロになっていた。しかし、そ
「門脇先生、やっぱり素晴らしいタイピングです! タイピングの魔術師のようですね!」 生徒の森島さんが、僕の隣でにっこりと笑う。花のような甘い香りが、ふんわり漂ってくる。 僕は「魔術師だなんて、大袈裟ですよ」と言って、キーボードから両手を離して立ち上がる。何もないような振りをするが、森島さんの言葉が嬉しくて頬がすこし緩んだ。 「さあ、今教えたように打ってみてください」 「はい」 森島さんに席を譲り、僕は彼女の背後からパソコンの画面を見つめる。さっきからいい匂いがする
「ああっ、もうっ! 今日は推しのアイドルのドラマがあるのに! 残業なんて!」 マウスを握っていた手を離し、掛け時計を気にする。もうすぐで21時だ。22時までに帰宅できるか? もちろん、録画予約もしているが、やはり、リアルタイムで観たい! 「よしっ! 気合いを入れて頑張るぞ!!」 再び、マウスを握りしめ、パソコンと睨めっこしようとしていたその時。 カチカチカチカチカチカチ・・・・・ 廊下から奇妙な音が聞こえる。 なんだ? 別の部署で誰か残業でもしている
『今日は七草粥を作っておけよ』 今朝仕事に出かける夫にそう言われ、私は今【七草粥】について調べている。昔から夫は、日本のしきたりみたいなものにうるさい。年末年始はおせち作りに忙しかった。二段の重箱にびっしり入っていないと怒られる。きっと、お義母さんがうるさい人なんだろう。 「そんなもの、どうでもいいじゃん」 私にまで押し付けないでもらいたい。 深いため息を吐きながら、七草粥について調べていると、突如インターフォンが鳴って肩がビクつく。 「はーい!」 扉を開け
〈あらすじ〉 ピンポーン! あなたの家にある日、宅急便が届く。板チョコみたいな箱に入ったデジタルメモ——名前はルメラ。差出人は不明。〝当選しました! おめでとう!〟の紙切れが、一緒に同封されている。 ルメラは小さなノートパソコンのようで、とても打ちやすい。物語を書くのに最適なデジタルメモに見えるが。しかし、ルメラに打ち込んだ物語は現実になるのだ。 勝手に暴走する恐ろしきルメラを、あなたは止められるのか? あなたの家にも、明日ルメラが届く——。 「よしっ!投稿!」 静けさ
2024年、4月30日。 私ことhowariは、おやじと初めて対面することとなる。名前が呼ばれ、とある乳腺外科の診察室の扉を開ける。「あまりいい結果ではありませんでした」乳腺外科の先生が言う。その一声の意味がよく分からないまま、私は画面に映し出された白黒の写真を見つめる。続けて先生が口を開く。 ——「乳がんです」 この日記は、howariとおやじ(乳がん)との壮絶(?)な戦いを綴ったものである。(これから乳がんという言葉は全て“おやじ”と記すことにする) ※ 2024年、
去年から持ち越した事柄をぼんやり浮かべながら、妻の作った雑煮を食べていた。やわやわに蕩けた餅がカツオ節やら、かまぼこに絡んでいる。それらを一緒に食べるのが好きだ。ただの吸い物ではなく、具に膜を貼るように絡んでくる餅がないといけない。それを喉に通すことで正月が来たのだ、と感じるのだ。 久しぶりに妻と過ごす休日を噛み締めながら、雑煮を飲みほす。すると、コトと朱色の茶碗が置かれ、ふいに妻が立ち上がる。玄関に向かって行き、年賀状を手に持って帰ってきた。 「あなた、年賀状来てる
照りつける太陽が、露出した肌をぢりぢりと焦がす。連日の猛暑日。交差点の向こう側のビルを見上げる。各地の最高気温を告げるアナウンサーの顔を見て、反吐が出そうになる。 そんなん聞きたくない。余計に暑さが増すだけだ。競ってなんになる。くだらない。 それよりも、それよりも、僕は——。 傷だらけの鞄の持ち手を握りなおす。今日もサイアクな一日だった、と黒々と光る地面に目を落とす。 あの場所が嫌いだ、大嫌いだ。そうして、帰りたくない。あの場所にも。 止まっていた人の群れが、動き
『先生。ぼく、今幸せなんだ』 健太くんはそう言って笑った。目の下には黒ずんだクマ。頬はひどく窪んでいた。でも、その表情は、至福に満ち溢れたものだった。 しかし、三日後。健太くんは行方不明になる。学校の下校中に忽然と姿を消したのだ。 それだけじゃない。他のクラスでも行方不明の生徒がいるし、この町に住む人々も行方不明になっている。 警察が色々と調べているが、まだ不明者は見つからないし、原因も分かっていない。町中では『神隠し』の仕業ではないか? と噂が立っているが、わたし
たっぷりと水分を含んだ布地がふくらはぎに吸いつき、足枷のようになっている。濡れたズボンの裾から滴る雨雫。それが肌の表面を沿って流れ、靴下を重くさせるのを感じる。 足が思うように、前方へ進まない。もう歩けない。しかし、私があれを見つけないと。あの子が。私のかわいいあの子が——助からないのだ。 ふっふっ、と冷たい息の隙間から、諦めにも似た笑みが漏れた。見つかるわけないじゃない。もう30年も前の噂なのだから。だって、あの日だって、本物だったか分からないじゃない。そうして、私
4月24日発売の澤村伊智さんの最新刊。発売日に買いに行き、25日にようやく読み終えました。読みたてホヤホヤの感想文を書きたいと思います。 〈「斬首の森」あらすじ〉 鬱蒼と暗い森の中に立つ合宿所。ある団体の〝レクチャー〟を受け洗脳されかけていたわたしは、火事により脱出する。男女五人で町へ逃げ出そうとするが、不可解な森の中で迷ってしまう。翌朝、五人のうちのひとりの切断された頭部が発見される。頭部は、奇怪な装飾を施された古木の根元に、供物のように置かれていて——。 この〈あらす
はじめまして。howariと申します。 monogataryを主に小説を書いています。 ホラー映画苦手だし怖がりなのですが、ホラー小説を主に書いています。なぜか、ホラーを書きたくなる…自分でも自分の心理を理解できないですね(笑)その他、恋愛やミステリー、ファンタジー、コメディなども書きます。 いつか自分の小説が本になり、書店に並ぶことを夢見て執筆を頑張っています。 https://monogatary.com/user_page/episode/e314ac3e-0d0b-1