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「得意なこと」を極めても、幸せにはなれない人生の不思議にせまるゴーリーの『金箔のコウモリ』

人生の不思議にせまるゴーリーの『金箔のコウモリ』

絵本作家エドワード・ゴーリーの大ファンです。

なかでも『金箔のコウモリ』は、何度も読み返してしまう大好きな作品。

個人的にはゴーリー作品のなかで、トップ3に入る作品だと思います。(ほかは『うろんな客』と『むしのほん』と、絵本全体でひとつのストーリーを物語っている絵本が好きです)

この絵本の主題は、ゴーリーがこよなく愛したバレエ。

ゴーリー独特の世界観と、深いメッセージが込められたストーリーは、読むたびに海を上をただようような余韻をあたえてくれます。

※ネタバレありです

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この絵本は、バレエダンサーの少女を描いた物語。

少女は幼い頃から才能を発揮。

少女は、バレエ以外のことに興味を持つことも許されず、自分の個性を抑圧しながら生きていきます。

そして、厳しい練習に耐えて、バレエの世界で成功を収めます。

しかし栄光を手にしても、実生活では幸せを見つけることができないでいます。

彼女の場合、人としての幸福よりも芸術的な成功を選ぶ、というよりも、「ほかに何をしていいのかを単純に知らない」状態。

表での華やかな生活と、裏での地味で感動もない生活。

結果、彼女は人間としての喜びを失い、孤独な存在に。

孤独が悪いというわけではないのですが、彼女の場合、孤独から満足感を得ている様子はありません。

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この物語は、バレリーナの死によって幕がおりるのですが、これを「悲劇」とみるか、人間としての苦しみからの「解放」とみるかで大きく印象がかわってきます。

個人的には「悲劇」ととりました。

バレリーナの内面は決して明かされることなく、ただひたすら舞台で踊るための準備がつみ重ねられていく序盤。

その結果、ほかの誰にも追いつけない境地に達し、彼女という人生の「芸術」が完成します。

まるで、芸術に身をささげた殉教者のように感じました。

その一途な生活が心をうつ一方、個人にとっては、日常生活が満たされておらず、悲劇としか言いようがありません。

「自分の得意なことを追求することは大切」ですが、「それだけでは本当の幸せは得られない」というメッセージを受け取りました。

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まとめると、『金箔のコウモリ』は、芸術と人生の矛盾を描き出した、ゴーリーの代表作の一つ。(彼の円熟期に描かれています)

手品のようにあざやかなストーリーテリングと、ぼくたちの憂鬱によりそってくれる陰翳の効いたイラストレーションが特徴的。

深いメッセージが込められたこの作品は、ぼくたちに人生の本質について問いかけてきます。

ゴーリーの絵本は、人生のつらさを味わった30代以降の大人にこそ、深い意味を持つ作品がおおいと感じます。

とくに本書は、人生の成功と幸福について考えさせられる、大人向けの絵本だと言えるでしょう。

この作品を通して、芸術的な成功と、人生の幸福のバランスを考えさせられます。

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