【映画】テロの恐怖と、人々の勇気に最後まで目が離せない「ホテル・ムンバイ」
「これが現実に起きたことなのか。。。」
『ホテル・ムンバイ』を観終わったあと、しばらくその場を動くことができませんでした。
2008年11月、インドのムンバイで同時多発テロが発生し、その標的のひとつとなったのがタージマハル・ホテル。
そのホテルを舞台に、実話に基づいて制作された映画が『ホテル・ムンバイ』で、ホテルに取り残された人々の恐怖の4日間が描かれています。
テロによって罪なき人々が犠牲になってしまう。
これは決して遠い国に限った出来事ではなく、東京オリンピック2020の開催など、国際的なイベントを主催する日本が、いつ標的となってもおかしくはありません。
世界を震撼させた「惨劇」の裏で起きた実話『ホテル・ムンバイ』の魅力を5つにまとめました。
① 圧倒的緊張感
2008年11月26日。
突如としてムンバイに銃声が鳴り響く。
ごった返す駅や人気のレストラン、病院、映画館などで10件のテロが同時に発生。
乾いた銃の発砲音が幾重にも重なり、鮮血に染まり床に倒れる人々。
29日に終息するまで、死者は少なくとも172人、負傷者は239人。
イスラム過激派組織による犯行。
「ホテル・ムンバイ」ではテロリストによる残虐行為を驚くほど無慈悲に淡々と描き、一気に観客を絶望の谷に叩き落とします。
本映画メインの舞台であるタージマハル・ホテルのロビーからテロリストたちの銃撃が始まります。
従業員や宿泊客が逃げ惑い、息を潜めて隠れ、脱出を試みるという内容で、テロリストの襲撃後、1秒後には何が起こるかわかりません。
この映画を観る人は、いつの間にか占拠されたホテルに身を置き、息を殺して物陰に隠れているような感覚に。
静けさの中でケータイの着信音だけが響き渡る場面では、一瞬にして緊迫感が跳ね上がります。
この場面を撮影するにあたって監督は、役者全員に緊張感をもたらすために、犯人グループを演じた俳優たちと、ホテルの従業員や宿泊客を演じた俳優たちを引き離し、巨大なスピーカーで銃声を大音量で流しました。
テロリストたちに自分の位置と存在を気づかれてしまうかもしれない恐怖と緊張感が、登場人物たちを通じて伝わってきます。
② 名もなき英雄たち
本作品はタージマハル・ホテルをメインの舞台に、テロ事件を克明に再現しています。
ライフルを携えたテロリストたちがホテルを占拠し、500名以上が絶体絶命の危機に直面しました。
そんな中、ホテルの従業員はホテルの内部構造に詳しいので、外への逃げ道は熟知しています。
しかし自分たちが先に逃げたら、取り残された宿泊客の命を見捨てることに。
極限状態の中でホテルマンたちは、震えながらも勇気をもって立ち上がります。
実際に当時のタージマハル・ホテルの従業員たちの判断、行動、自己犠牲が映画に反映されており、熱い涙がこみあげてきます。
ホテルマンたちが命がけで奮闘しなければ、実際の死者は何倍にも膨れ上がっていたといわれており、「名もなきヒーロー」たちの「お客様第一の心遣い」や「人間の崇高な精神」に、激しく心を揺さぶられます。
③ 自分ならどうするか?
もし自分が宿泊しているホテルが、突然テロリストたちに占拠されたらどうするか。
これは、ぼくたちにも起こり得る現実の問題です。
多くの犠牲者が出る凶悪な犯行が、予告もなしに遂行される恐怖。
無関係の人たちが目の前で命を失ってしまう無念さ。
その恐怖や無念さに直面した時に、どうやって自分や周りの人の命を守るのか。
ホテルマンたちは、自分たちも命を失うかもしれないという状況下で宿泊客を守るために行動をおこしますが、実際に命を落とすホテルマンも多数描かれています。
人間の想像力を容易に超えてしまうテロ事件ですが、「テロに遭遇した場合の教訓」を必然と考えさせらえる映画です。
④ 安定の名演技:主役のデブ・パテル
「ホテル・ムンバイ」で主演を勤めたのは、「スラムドッグ$ミリオネア」でも主演を務めたデブ・パテル。
今回も胸を打つ名演技を見せてくれました。
「すべらない俳優」の名をほしいままにするデブ・パテルの実力は、これまでの出演作が雄弁に物語っています。
2007年に放映されたティーン向け連続テレビドラマ「スキンズ」(第1、2シーズン)でデビューし、アカデミー賞作品賞に輝いた「スラムドッグ$ミリオネア」では、スラム街出身の無学の青年を熱演、AIロボットの成長を描いた「チャッピー」や、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた「LION ライオン 25年目のただいま」などなど、どれも名作ばかり。
そんなパテルが「ホテル・ムンバイ」で演じたのは、宿泊客を脱出させるためホテルに残った給仕のアルジュン。
ムンバイでの同時多発テロは、パテル自身にとっても生涯忘れ得ぬ事件で、デビュー作「スラムドッグ$ミリオネア」のダンスシーンは、ムンバイの駅で撮影され、その数か月後にその場所がテロの標的となりました。
彼は「ホテル・ムンバイ」の製作総指揮にも名を連ね、単なる出演作にはしたくないという思いが現れています。
⑤犯罪者の視点
通常のテロ映画の場合、観客を震え上がらせるために、加害者側は単なる悪魔として描かれます。
しかし「ホテル・ムンバイ」では、主人公を演じるパテルが「この映画は、犯人側の気持ちも描いているところが斬新」と語る通り、犯人達の顔がかなりクローズアップされています。
犯行グループはイスラム過激派の若いテロリスト集団で、隣国パキスタンから海を渡ってやってきました。
少年の面影を残している彼らは「ブル」と呼ばれる首謀者の指示に盲目的に従っており、当然利用されている立場。
もちろん彼らの残虐な行為は弁護できるものではありませんが、洗脳され、残虐行為を強制させられている被害者でもあることを、彼らの葛藤の表情が物語ります。
そんな国際社会の複雑な事情を、「ホテル・ムンバイ」で垣間見ることができます。
まとめ
本作では、テロリストに占拠された五ツ星ホテルからのホテルマンと宿泊客の脱出劇が描かれています。
テロを再現した鬼気迫る映像と、心打たれるホテルマンたちの高い倫理観。
「ホテル・ムンバイ」は、世界を震撼させた事件を、改めて作品として世に問いかけることが、映画の一つの役割だと思わせてくれます。
「無名のヒーローたち」が起こした奇跡を、是非とも観てみてください。