レビュー『大前研一「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む』
本日紹介する「新・資本論」は、大前研一さんの本。
まずはアメリカで出版され、原題は「Invisible Continent」。
21世紀の新しい経済社会を「見えない大陸」と呼び、そこで成功するために必要な戦略を提示しています。
かつてのアメリカ大陸のように、新大陸は、移住した者にとって大いなるチャンスをあたえるもの。
20年も前に出版された本ですが、21世紀の社会を生き抜くためのヒントが詰まっていました。
本日は、そのなかでもとくにユニークな3つの視点を紹介します。
新大陸の4つの要素
この見えない大陸は、以下の4つの要素から成り立っています。
・実体経済: モノやサービスの生産・流通・消費
・ボーダレス経済: 国境を越えた経済活動
・サイバー経済: インターネットを活用した経済活動
・マルチプル経済: 金融工学を活用した経済活動
これからの時代は、この4つの要素をうまく組み合わせて、ビジネスを展開していくことが重要。
最初の3つはすでに当たり前になっているのでイメージがつきやすいですが、なじみがなかったのが「マルチプル経済」。
実際の売上が少なくても、会社の時価総額が高額になることにより、他社をどんどん買収していくことができるという例が挙げられていました。
「レバレッジ」と似た概念かなと思いました。
創造的な地域
21世紀の社会では、国や企業だけでなく、地域も重要な役割を果たします。
本書では、世界から人、企業、金が集まる「栄える地域」の条件として、以下を挙げています。
・グローバル経済と直接接点を持っている
・サイバースペースを活用
・教育水準の高い人材がいる
・国際空港や高度な通信インフラがある
・中央政府の指示に頼らずにあるていど自由な裁量権を持つ
また、最適な人口規模は、500万から2000万ぐらいとのこと。
その理由は、グローバル経済に参加するのに必須な通信、交通、専門サービスのインフラを効率よく行うのには十分なサイズだからです。
具体例として挙げられているのは以下の地域・国です。
・アメリカの一部(オースチン、サンアントニオ、フェニックス、スコッツデール、シアトル、サンノゼ、ボストン、ケンブリッジ、NY、ワシントン特別区の郊外)
・アイルランド
・フィンランド
・トリニダード・トバゴ
・ニュージーランド
・バンガロール
・ハイデラバード
・プネー
・マレーシアのスーパーコリドー
・中国の大連
・ペナン
・カタロニア地方
・香港
20年も前なので状況は変わっているでしょうが、知っておいて損はありません。
個人的に気になったのは「トリニダード・トバゴ」というカリブの国。
どうやら化学品と肥料で業界のリーダーとなっているよう。もっと詳しく調べようと思いました。
アービトラージ
本書では、「アービトラージ」という言葉が登場します。
これは、より良い選択肢を求めて行動することを意味しています。
たとえば、お金持ちの男性と付き合うために、今の貧乏な彼氏を捨てるという女性の行動は、アービトラージと呼ばれます。
同様に、グローバルな自由市場では、消費者はより良い商品を求めるようになります。
つまり、これからの時代を生き抜くには、自分にとってより良い選択肢を見つけ出し、それを実践することが重要だと言えます。
ビジネス、政治、学習など、あらゆる面でアービトラージの発想が必要不可欠となってきています。
「FIRE」の文脈でよく聞くようになった「アービトラージ」という言葉が、すでに本書で取り上げられていることに驚きました。
まとめ
『新・資本論』は、21世紀型の経済社会の本質を鋭く捉えた骨太な著作です。
ボーダレス化、IT化、金融工学化など、現代経済の特徴を丁寧に解説しつつ、創造的な地域の条件やアービトラージの重要性といった、ユニークな視点が盛りだくさん。
本書は、経済の専門知識がなくても理解できる内容。
21世紀の社会を生き抜くためのヒントを探している人に、オススメの一冊です。
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