石母田正『歴史と民族の発見』より

「学問という伝統的な世界に育った私には、過去の日本の歴史、過去の日本人にたいすると、現在の日本人の一人一人が必死に生きているのだという同情や共感をうしなってしまいます。一人一人の平凡な人間がもっというひろい世界、この世界が何千万も集まって形成している日本という世界、その深さと可能性は無限といってよいほどの世界ですが、そのような感じや眼で、私は歴史というものを見ていなかったのだとおもうのです。私は日本の古い歴史学から理論や方法で解放されているようにうぬぼれておりましたが、右の点で学問というものの抜きがたくつよい影響のなかにあったかぎり、理論や方法だけではどうにもならなかったのだとわかってきました」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?