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アンプラグドという言葉も使ってなかった 『Five Man Acoustical Jam』 TESLA 

1986年にゲフィンからデビューしたカリフォルニア出身のテスラは、2枚のアルバムを順調に売り上げた後、1990年にアコースティック・ライブアルバムとなる本作をリリースしました。

売れ始めた時期やその見た目でどうしてもグラム・メタル系と一括りにされてしまう印象があるテスラですが、このライブを聴くとそのベースにある音楽性や確かな演奏力を感じることができます。

本ライブが収録された会場はフィラデルフィアのTrocadero シアターで、オーディエンスが楽しんでいる雰囲気も最高です。彼らの曲はもともとアコースティック・ギターが使われているものも多いので、それほど違和感なくアコースティック・ヴァージョンになっていて、会場の盛り上がりと相まって素晴らしいライブになっています。

中でも“Love Song” はまさしく熱演で、美しいアコースティックでのギターソロが途中からエレキになり会場の盛り上がりは最高潮、最後は大合唱となります。ジェフ・キースのパフォーマンスも素晴らしいです。

カバーの選曲も激シブで、グレイトフル・デッドの“ Truckin’ ”、ビートルズの“ We Can Work It Out ”(ポール・マッカートニーの“ Maybe I'm Amazed ”も触りだけやってます)、アルバムタイトルの由来にもなっているファイブ・マン・エレクトリカル・バンドの“ Signs ”、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイバルの“ Lodi ”、ローリング・ストーンズの“ Mother`s Little Helper ”がどれもテスラらしく、(当たり前ですけど)アコースティックにカバーされています。

と、偉そうに書いてますが当時はレンタルしたCDをカセットテープに録音して聴いていましたから、それほど情報を得ていたわけではなく、ビートルズやストーンズのカバーはまだしもグレイトフル・デッドやCCR、ましてやファイブ・マン・エレクトリカル・バンドのカバーに関してはさほど認識もしておらず、ただただテスラの演奏するかっこいい曲として聴いていました。

のちにこれらの原曲を聴いて妙に感慨深くなったものです。あの時のカセットテープ達はどこに行ったのでしょう?

それまでにシングルヒットも出ていたテスラでしたが、改めて考えるとなぜこのタイミングでアコースティックのライブアルバムをリリースすることになったのか不思議に思い、後に購入したCDに同封されていた伊藤政則氏によるライナーノーツを見てみるとしっかり事情が書いてありました。さすがのメタルゴッド。

モトリー・クルーのオープニング・アクトに呼ばれたテスラが、空いている日程で何かできないかと考えたのがアコースティック・ライブらしく、それが話題になってリリースに至ったのだそうです。これが大ヒット(アルバムは12位、シングルの“Signs”は8位)するのですから、わからないものです。

本作以前にもアコースティック主体のライブアルバムは存在してますが(それこそグレトフル・デッドの『Reckoning』とか)、この頃にHR/HM系のバンドがこんな形でアルバムを出すのは珍しかったですし、そこからシングルヒットまで出るのはもっと珍しかったと思います。アンプラグドという言葉もまだ使ってなかったですね。

この後、アンプラグドと名のついたアルバムがたくさんリリースされるようになりました。そこに本作がどのくらい影響を与えたのか分かりませんが、私にとっては極めて新鮮な体験をさせてくれた1枚になります。

あの頃のカセットテープ達に会いたいです。






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