3人になってからも素晴らしかったバンドを締めくくる 『We Can't Dance』 GENESIS
私はジェネシスを大きく三つの時代に分けて聴いています。
一つ目がピーター・ガブリエル在籍時のプログレ期、二つ目がヴォーカルはフィル・コリンズになるもスティーヴ・ハケットが残っているまだまだプログレ期、そして三つ目が3人体制期(『Calling All Nations』も3人ということで)です。
初めてジェネシスを聴いたのは『Invisible Touch』(1986年)がリリースされたときでした。
当時の私にとっては “『No Jacket Required』 で無双していたフィルがどうやらジェネシスというバンドのメンバーらしく、そこに戻ってアルバムを出した” という、ある種の本末転倒的な認識でした。バンドとしてというよりも、フィルが歌うヒット曲の数々の延長線上で聴いていた感じでした。
『Invisible Touch』はそれこそ信じられないくらいに売れまして、(それまでのファンがどう感じたかは別にして)80年代におけるポップ・ロックの金字塔と言って差し支えないと思います。
最初から最後まで、全く隙のない曲で埋め尽くされている名盤で、当時はTDKのMA-XGというメタルテープに録音して聴いていました。つまり、CDを買わない対象としては私の中で最上級の扱いでした。
繰り返し聴く中でフィルが元々はドラムであること、ピーター・ガブリエルが元のヴォーカルだったこと、初期はプログレだったことなど、ジェネシスに対する理解を深めた頃に、マイク・ラザフォードはマイク&ザ・メカニクスとして1988年に『Living Years』を(この時にやっと1985年のヒット曲「Silent Running」とマイク・ラザフォードが結びつきます)、フィルは1989年にソロアルバム『...But Seriously』をリリースし、それぞれをヒットさせています。
その後にリリースされたのが、フィルを含む3人体制では最後となった『We Can’t Dance』(1991年)となります。(それにしても1991年ってすごい)
あれだけのヒット曲集となった前作と比べればどんなアルバムでも少し地味になってしまうとは思いますが、メンバーのソロ活動も大成功している中でリリースされた本作はやっぱり、「決して悪くないけど少し地味」という印象でした。
実家を離れてCDラジカセしかない環境になったタイミングだったこともあって、あまり良いテープに録音することもなく、それほど熱心には聴きませんでした。
社会人になってからはプログレ期や3人になってからのジェネシスも聴くようになり、それぞれに好きなところがある素晴らしいディスコグラフィーであることを実感しましたが、それでも最初が『Invisible Touch』だったこともあって、日常的には3人になってからのジェネシスを聴くことの方が多かったです。
なのに、なぜかリリース当時にテープで聴いて以来、聴き返すことなく放置していたのが『We Can’t Dance』でした。
ここ最近になってジェネシスの活動の終わりに関するニュースなどを見る機会が増え、思い返すうちに「そういえば久しく『We Can’t Dance』を聴いてないな」と思い至ったのです。
思い立ったらすぐに聴けるのが現代の素晴らしいところ。早速、⑴ No Son Of Mineから最後まで聴いてみたのです。『Nursery Cryme』(1971年)以降のジェネシスを一通り聴き、フィルのソロ作やマイク&ザ・メカニクスも聴き、自分の加齢も影響してなのか、当時では感じ取ることが出来なかった深い味わいがあることに気がつきました。
そこに並んでいたのは極めて端正で、お洒落さにプログレッシブ感を足した、高品質な曲の数々でした。アーバン(Urban)・プログレとか言ったら笑われるかもしれませんが、そんな感じなのです。
⑶ Driving The Last Spike と ⑿ Fading Lights は10分を超える曲になっていまして、ゴリゴリのプログレ曲かと言われるとそうでもないのですが、聴きやすいながらも展開はジェネシスのそれ(というかトニー・バンクス)であり、高揚感に溢れます。
⑵ Jesus He Knows Me は当時からそのキャッチーさやフィルの言葉を乗せていく感じが好きな曲でしたが、改めて調べてみるとかなりシリアスが歌詞であり、それはこの曲に限らず全編に通じて言えることがわかりました。
⑸ Never A Time はありふれた曲くらいに思っていましたが、いま聴くとマイクのギターが気持ち良すぎる!
⑼ Hold On My Heart は安定のバラードで、フィルのソロアルバムに入っていてもおかしくありませんが、ここでもマイクのギターは美しいです。
⑾ Since I Lost You は当時、「まあ、悪くないバラード」と生意気な感想を持っていましたが、これはエリック・クラプトンの息子さんが不幸な事故で亡くなったことに対しての曲であることを知り、全く印象が変わりました。グラムメタルを聴いて育つと歌詞への関心を失いがちで、今更ながら反省した次第です。
本作ではフィルも概ね、普通のドラムを叩いてくれています(←打ち込みや電子ドラムが悪いわけではないのですが)し、トニー・バンクスの見せ場も十分にあると思います。
そして、マイクのギターがどれも素晴らしいです。曲を印象付けるメロディックなラインばかりで、美しい響きを堪能できます。
元々はベースプレイヤーであり、ギターとベースのダブルネックが有名かもしれませんが、本作でのギターには酔いしれました。お洒落感の多くはマイクのプレイによってもたらされていると思いますし、まさしく名曲「The Living Years」を弾いているその人といった感じです。
フィルは神経と脊椎の損傷からドラムを叩けなかったようですが、ジェネシスはフェアウェルツアーを終了しています。ひとつの時代が終わったということなのでしょうし、終わりを告げる為に再結成ツアーを行うことができたのは本当に良かったです。
そんな近況から、ここに来て「We Can’t Dance」のタイトルがより効いてきた感じもあって、引き続き本作を繰り返し聴いているところです。“残った3人”による最後のアルバムのリリースから30年経って、現在のお気に入りとなりました。
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