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あまりにも音楽以外の話題が多くなってしまったかもしれない 『Lovesexy』 PRINCE

殿下(プリンス)は2016年にお亡くなりになっています。57歳だったそうで、その創造性が地球から失われたのは本当に残念です。

プリンスは私がリアルタイムで体験した天才で、多作ぶりだけでもその才能に驚きますが、曲が書けて、歌えて、楽器が出来て、踊れてというのはとんでもなかったと思います。それに加えて独特の自己表現、いやまったくもってアーティストでしたね。生で観てみたかったなー。

『Purple Rain』(1984)や『Around The World In A Day』(1985)、そして『Sign “O” The Times』(1987)がお気に入りですし、『Musicology』(2004)や『3121』(2006)もよく聴きました。中でも『Sign “O” The Times』は大傑作だと思いますし、待ち望んでいたリマスターが2020年にリリースされたのは本当に喜ばしいことでした。

ただ、ここで取り上げてみたいのはリリース当時に音楽以外のことが話題になりがちで、あまりその音楽に注目が集まらなかったかもしれない『Lovesexy』(1988)です。

なんといってもそのアルバムジャケットが人を遠ざけたでしょう。なぜこんなアートワークなのか、「さすがは殿下」としか言いようがありませんが、これだけでもファン以外の人が買ったり借りたりする機会は減ったんじゃないかと思います。

それに加えて、このアルバムのCDは曲間の切れ目がなく、⑴ Eye Noから ⑼ Positivity までを1曲扱いで収録されていたのです。

殿下の側からすれば、「レコードで聴くようにスキップすることなく、アルバム全体を通して聴いてほしい」というメッセージだったのかもしれませんが、私の記憶だと既に多くの人がCDへ移行しており、レコードやカセットテープと比較して容易に曲をスキップしたり好きな曲だけを繰り返し聴けるCDの恩恵に慣れ始めた私達には「なんでこんな面倒なことをするんだ」と感じさせる仕様でした。

実際、私もCDをレンタルした(レンタル店の棚でも異様な存在感を放つCDジャケットでした)のですが、その再生時間は45分強。果たしてどこかで切ってカセットテープのA、B面に分けて録音するか、90分テープでA、B面ともに録音するかを悩まなくてはなりませんでした。

そして、もう1つの障害が本作の前にリリースが予定されていた『The Black Album』です。

傑作を連発していた上に『Sign “O” The Times』まで世に出したプリンス。次作への期待はこの上なく高まっていましたが、予定されていた『The Black Album』は直前になって発売中止。このニュースは大きなものとなっただけでなく、その音源が流出した(結果的に海賊盤が500万枚売れたとか)という騒ぎの中でリリースされたのが本作でして、そこに加えてのあのジャケットとCDの仕様。どうしても音楽以外の話題が多くなってしまった印象で、さすがの殿下もセールス的には低迷したようです。

それでも、結局はAXIAの90分テープの両面に録音した私は、カセットにしてしまえば曲間の切れ目がないことやあのジャケットが気になることもなく、結構な頻度で聴くようになりました。そこにある音楽に集中できるようにさえなればそこは殿下、洗練された曲がとめどなく襲ってくるあっという間の45分です。

⑴ Eye No から ⑵ Alphabet St. の超絶に洒落たファンク感、⑹ Lovesexy 以降の美しくスケールの大きな曲を好きになってしまうと、「もっと普通に聴いてもらえる状況があればなー」と勝手に悔しくなってしまったものでした。

しかしながら、そのまま下降していかないのが殿下。この後になんとあの革新的な“Batdance”をリリースして大ヒットさせるのです。その才能、底なしすぎる!

振り返れば、『Lovesexy』には“Batdance”に通じていく要素が感じられますし、改めてクレジットを見てみると、シーラ・E など何人かのミュージシャンが参加してはいるものの、曲は限られていて(シーラ・Eだけは7曲で参加)、ほとんどをプリンス自身が演っています。

Wikiにはギターやベース、ドラムの他に、Yamaha KX88, Roland MKS20, Ensoniq ESQ-1, E-mu Emax, Fairlight CMI, Roland D-50, Yamaha DX7, Dynacord Add-One, Linn LM-1(この辺はシンセサイザーと総称していいもんなんでしょうか?)と列挙されており、1人で作り上げている感じが伝わってきます。この人、ほんとにすごい。

カセットテープで聴いていた本作を久しぶりに聴くきっかけになったのは数年前のiTunes Music Storeでして、まるで殿下の意志を受け継ぐかのように1曲として配信されていたのです! 値段は通常の1曲分で、「これはお得!」とすぐにダウンロード購入しました。あんなに不便に感じた形で配信されていることも、なぜか嬉しく感じました。

今では曲ごとに配信されてますし、公式YouTubeでも1曲ごとに聴けますが、改めて聴いた『Lovesexy』は冗談抜きでいまリリースされても違和感ないんじゃないかなっていうくらいに新しい音楽でした。

多作なプリンスでしたから、世に出ているアルバムでもまだ聴いていないものが私にはたくさん残されています。恐ろしい数の未発表作品も残されているそうですが、お気に入りのアルバムを楽しみつつ、まずは未聴アルバムを制覇したいと思います。

当時は先を行き過ぎていて理解しにくかったその音楽に時代が追いついて、普通に楽しめるようになっているかもしれません。

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