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ジェイソン・ベッカーとスティーヴ・ハンターの友情物語にも繋がる 『A Little Ain't Enough』 DAVID LEE ROTH

デイヴ・リー・ロスはヴァン・ヘイレンのヴォーカルであり、ソロになってからもスティーヴ・ヴァイとビリー・シーンを従えて『Eat 'Em And Smile』などのド派手なアルバムを大ヒットさせた、ロック界最高のエンターテイナーの1人と言っていいかと思います(なにせダイヤモンド・デイヴですから)。

今回はソロ作としての3枚目、『A Little Ain't Enough』 について書こうと思うのですが、改めて聴いたり調べたりするうちに思わぬ方向へ向かってしまいました。あれこれ書きますが、言いたいのはこの3枚目も多彩な曲が収録された素晴らしいハードロック・アルバムだということです。

ビリー・シーンに続いてスティーヴ・ヴァイも失ったデイヴは、後任としてジェイソン・ベッカーを選びました。

これは当時もなかなかのニュースだったと記憶していて、マーティ・フリードマンとのカコフォニーは聴いていませんでしたが、ジェイソンの『Perpetual Burn』を聴いていた私は「どんな感じになるのか?」と心待ちしていました。

アルバムは本当にバラエティに富んだ内容で、クレジットを見ると長らくデイヴと共にいたキーボードのブレット・タグル(昨年、亡くなってしまいましたね…)が6曲、リズム/スライドギターのスティーヴ・ハンターが3曲、ジェイソン・ベッカーが2曲、ロビー・ネヴィル(我々の世代では「セ・ラ・ヴィ」でお馴染み)が2曲、クレイグ・ゴールディ(ディオ!)が1曲と、主だった名前を見るだけでも多彩です。

しかしながらしっかりとデイヴ印のハードロックとなっていて、12曲があっという間。もちろん、ビソネット兄弟のリズムセクションは鉄板です。

そして本作も名盤多数の1991年リリース。加えてプロデューサーはボブ・ロック。悪いはずがないのです。

シュラプネル系ギタリストであるジェイソンはリード・ギターと記載されていて、本当のところどこまでが彼のプレイなのか分かりませんが、想像以上にブルージーな要素をデイヴ風(デイヴはちょっとブルージーな曲を自分流にやるのが本当に上手ですよね)に盛り込みつつも、持ち前のテクニックを存分に発揮しながら決して弾きすぎることのない素晴らしいもので、ギタートーンも超カッコいいです。

しかしながら、レコーディング中には既に不調が現れ始めていたそうで、後に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されます。ツアーに出ることは叶わず、レコーディングのみで脱退。

その後の彼の人生は、加入した時には想像もつかないものになってしまいました。ただの音楽ファンである私ですらこんなに残念なのですから、本人やご家族、バンドの失望は計り知れません。

ジェイソンが共作している ⑾ It’s Showtime! や ⑿ Drop In The Bucket はデイヴの個性と融合した、最高のハードロック曲になっていると思います。⑾ のハネた疾走感、⑿ のギターソロ前の高揚感(たまらん!)とそこからのソロとエンディングまでの爽快感、「DLRバンドはこうじゃないとな!」という曲で締め括られます。この続きを聴くことが出来なくなってしまったのは、本当に残念でなりません。

ギターを弾けなくなってからも『Perspective』をリリースし、その作曲能力を存分に発揮してくれていました。

近年は眼球運動でコミュケーションを取っているとされるジェイソンが少し前に感染症を患い、危機に瀕しているというニュースを見て心を痛めていましたが、無事に回復したようで何よりです。

そんなジェイソンが参加した本作は1stや2ndに負けないくらい素晴らしいことを伝えたいと思い、今回の投稿にあたって聴き直したり調べたりしていると、リズム/スライドギターとして名前があるスティーヴ・ハンターが気になり始めました。

参加していることは認識していましたし、これまではスライドギターを聴いて「これがそうなんだろう」くらいにしか思っていませんでしたが、ハンターがクレジットされているブルージーな曲では「もしかして思ってる以上に弾いているのでは?」と考え始めたのです。

ハンターのサイトでは彼が参加したアルバム一覧を見ることができるのですが、そのリストの豪華さに驚きました。

本作の欄を見てみると、ジェイソンのスタイルに少しブルースを加えたいと考えたデイヴが、ハンターを教師として採用したようなのです。

若くてシュレッダーなジェイソンとうまくやれるのか心配したようですが、クラシック音楽への愛情などを共通項として意気投合したそうです。

“Tell The Truth”や“40 Below”などのブルージーなプレイにはハンターの手本があったと考えて良さそうですし、“Hammerhead Shark”でのスライドギターとの掛け合いも急に立体感が出てきました。

違うチャンネルから聴こえてくるリズムギターはハンターによるものなんでしょうし、曲によっては思っている以上にハンターのプレイが入っているのかもしれません。

前述した『Perspective』でも、マイケル・リー・ファーキンスのプレイで知られる “End Of The Beginning” のミドルセクションのクリーン・ギターは スティーヴ・ハンターとなっていて驚きました。

その後も交流は続いているようで、(今更ですが)嬉しくなってしまいました。

そして、これを機にハンターのソロアルバムもいくつか聴いてみました。『Hymns For Guitar』が素晴らしいです。ジェイソンが引きあわせてくれました。


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