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ボブ・ロックへの感謝とともに聴く 『Dr. Feelgood』 MÖTLEY CRÜE

LAメタルという言葉のもとに、モトリー・クルーやRATT、ドッケンの人気が高かった時代がありました。その中でモトリー・クルーはとりわけ素行が悪いイメージで、Sex, Drugs and Rock ‘n’ Rollを象徴するようなバンドでした。

そんなイメージもあって、シングルとしてヒットした「Home Sweet Home」や「You're All I Need 」を聴いてはいても、『Shout At The Devil』はもちろんのこと、『Theatre Of Pain』や『Girls, Girls, Girls』といったアルバム単位で聴くことは敬遠していた音楽ファンは少なからずいたと思います。

しかしながら、そんな人たちまで巻き込んでしまったのが『Dr. Feelgood』でした。(当時は同じ月にTears For Fearsの『Seeds Of Love』もリリースされ、どっちを買うのか悩んだ記憶があります)

メンバーがドラッグを絶って制作されたことがどのくらい影響したのかはわかりませんが、本作ではまず最初にヴィジュアルが随分とクリーンになった印象を受けました。

そして、もともと良い曲を書く人達ではあったのですが、そこから何段も駆け上がったような楽曲で埋め尽くされていました。なんだかんだ言っても抗えない完成度の高さでしたね。


⑴ T.n.T. から ⑵ Dr. Feelgood の入りまでを聴いただけでも昇天しましたね。これには本当に痺れました。

⑸ Kickstart My Heart は言ってみればニッキーの臨死体験なわけですが、ひたすらカッコいい曲に仕上がっています。

⑹ Without You のような曲は、このジャンルに関心のない人も意識することなく普通に良い曲と感じて聴いたと思いますし、⑽ Don’t Go Away Mad や ⑾ Time For Change も同様だったでしょう。

他の曲もモトリーらしさを失うことなく聴きやすい上に、フック満載曲が並んでおり、この時代のHM/HRを代表する、いつどこから聴いても理屈抜きで楽しめる名盤だと思います。

これにはプロデューサーのボブ・ロックによるところも大きかったでしょう。

エンジニアとしてラヴァーボーイなどと仕事をした後、ザ・カルトの『Sonic Temple』やブルー・マーダーをプロデュースしたところだったボブ・ロックからしても、きっと重要な仕事だっただろうと思います。ドラッグを絶ったとは言っても彼らと仕事をするのは大変だったようですが、ドラムサウンドをはじめ、とてつもなくカッコいい、ゴージャスな音が作られていますし、バンドのレベルを大きく引き上げたと思います。

のちにメタリカとの仕事などで名を馳せていくボブ・ロックですが、きっと大きな転機のひとつとなったはずの本作は、アメリカだけで700万枚以上売れたそうでして、完全にLAメタル(グラムメタル)の枠を超えたアルバムになりました。

バンドはこの後、なかなか難しい時期を迎えます。ベスト盤(新録の「Primal Scream」は最高)を出したのち、すったもんだでヴォーカルはジョン・コラビとなり、これもボブ・ロックのプロデュースでセルフタイトル作をリリースします。

いま聴けば曲は良いですし、ギター、ベース、ドラムは過去最高なんじゃないかと思うくらいに素晴らしいのですが、The Screamでジョン・コラビのヴォーカルに馴染みがあった私でも受け入れるのは難しく、聴いたのは随分後になってからでした。

次の『Generation Swine』でヴィンスは戻るのですが、今度は作風が「これじゃない」感でいっぱいに。「こっちがジョン・コラビで前作がヴィンスだったらよかったのに」と無駄なことを願ってしまいます。

その後もトミー・リーが抜けたりなどの紆余曲折を経て、オリジナル・メンバーでファイナル・ツアーを行いましたが、ドキュメンタリー「The Dirt」に気を良くしたのか活動を再開。

しかしながら今度はミック・マーズが脱退。かねてからの持病もあり仕方のないことなのかもしれませんが、個人的にサウンドの肝はミックのギターだと思っていましたので残念です。

と、ここまで振り返ってみても結局、バッドボーイズのままなモトリー・クルーですが、それが“らしさ”なのでしょうし、彼らがあのタイミングでボブ・ロックとアルバムを作ってくれたことには感謝しかありません。

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