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養生訓 巻第七 用薬 鳳凰堂流解釈⑭

原文を現代文に改変

藥剤一服の大小の分量、中夏の古法を考え、本邦の土宜にかないて、過不及なかっるべし。

近古仲井家には、日本の土地民俗の風氣に宜しとて、藥の重さ八分を一服とす。醫家によりて一匁を一服とす。

今の世、醫の藥剤は一服の重さ六七分より一匁に至る。一匁より多きは稀なり。中夏の藥剤は醫書を考うるに、一服三匁より十匁に至り、東垣は三匁を用いて一服とせし事あり。

中夏の人煎湯の水を用ゆる事は少なく藥一服は大なれば煎汁甚だ濃くして藥力強く病を治する事早しと云う。

然るに日本の藥この如く小服なるは何ぞや。曰く、日本の醫の藥剤小服なる故三あり。一には中華の人は日本人より性質健やかに腸胃強き故、飲食多く肉を多くくらう。日本人は生まれつき薄弱にして腸胃よわく食すくなく、牛馬犬羊の肉を食うによろしからず。かろき物を食らうに宜し。この故に藥剤も昔より小服に調合すと云う。是一説なり。

されども中華の人、日本人同じく是火となり。大小強弱少なかわる共、日本人さしょど大におとる事、今の醫の用ゆる藥剤の大小の如く、三分の一、五分の一にはいたるべからず。

然れば日本の藥小服なる事、この如くなるべからずと云う人あり。一説に或人の曰く、日本の藥種ともし、わが國になき物多し。はるかなるもろこし、諸蕃國の異舶に載せ來るを買いて價貴とし、大服なれば費多し。

ここを以て藥剤を大服に合わせがたし。殊に貧醫は藥種をおしみて多く用いず。

然る故小服にせしを、古來習い來りて富貴の人の藥といえども小服にすと云う。是一説なり。

又曰く、日本の醫は中華の醫に及ばず。故に藥方を用ゆる事、多くは其の病に適當せざらん事を畏る。

この故に決定して一方を大服にして用いがたし。若し大服にしてその病に應ぜざれば、かえって甚だ害をなさん事畏るべければ、小服を用ゆ。藥その病に應ぜざれども、小服なれば大なる害なし。若し應ずれば小服にても日をかさねて小益は有ぬべし。ここを以て古來小服を用ゆと云う。是又一説なり。

この三説によりて日本の藥古來小服なりと云う。

鳳凰堂流意訳

薬剤一服の大小の分量、中華の古法を考え、日本の土地にかない、過不足がないようにする。

近古仲井家には、日本の土地民俗の風気に良いとして、薬の重さ八分を一服としている。医家によっては一匁を一服としている。

今の世(江戸時代)は医の薬剤は一服の重さ六七分から一匁となる。一匁より多いのは稀である。

中華の薬剤は医学書から考えると、一服三匁から十匁であり、東垣は三匁を一服とした事もある。

中華の人で煎じた湯の水を用いる事は少なく、薬一服は多ければ煎じた汁を非常に濃くして薬の力を強くすれば病が治る事も早いと言っていた。

このように考えると、日本の薬がこんなに小服なのはなぜか。

日本の医の薬剤が小服な理由には3つある。

一つは中華の人は日本人より性質健やかで腸胃が強く、飲食が多く肉を多く食べる。

日本人は生まれつき薄弱で腸胃が弱く食も少なく、牛馬犬羊の肉を食うのを良しとしなかった。軽い物を食べるのが良いとした。このような理由から薬剤も昔から小服で調合したというのが一説である。

しかし中華の人は、日本人と同じく人である。大小強弱少は違っても、日本人が大きく劣ることは、今の医が用いる薬剤の大小のように、三分の一、五分の一にはいたらない。

従って日本の薬が小服であるのは、このような理由からではないと言う人もいる。

また一説に、ある人は、日本の薬種や日本にないものが多いと言う。遠くの中華が船で持ってくるのを買う為、高価になり、大服になると更にお金がかかる。

ここから薬剤を大服に合わせることが難しいと言うのである。特に貧医は藥種をおしみ多く用いない。
このような理由から小服にしたのを古來から習慣化し富貴の人の薬であっても小服にすると言うのが一説である。

又、日本の医は中華の医に及ばず。その為薬方を用いる事、多くはその病に適当なものでない事を恐れる。

このような理由から一方を大服にして用いるのが難しいと言う。もし大服にしてその病に適応しなければ、かえって非常に害をなす事を恐れれば、小服を用いる。薬がその病に適応しなくても小服であれば大きな害はない。もし適応すれば小服でも日をかさねて小益は得られる。このような理由から古來小服を用いたと言うのが一説である。

この三説によって日本の薬が古來から小服だと言っている。

鳳凰堂流解釈

日本人の悪い癖なのか、他を持ち上げて自分を下げる。

全て日本人の小ささ、金のなさ、能力の低さが原因のような言い回しは、貝原益軒の見識を大きく疑うところです。

甲乙経を読めば、小さい方が中身が詰まって良い事は古来から認識されており、

ホメオパシー等では、分子が小さいほど効果的だと言われている事等。

安易に用いないように、また精細な診断がなければ効果も無いように考えられていると鳳凰堂は考えています。

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