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090_『逃亡派』 / オルガ・トカルチュク

またも素晴らしい作品との邂逅。
いや、正確に言えば、再会。

数ヶ月前、一度図書館で借りたものの、返却期間が来てしまい断念した作品。

返却してしまったあとも、頭の中にずっとその余韻が残っていて、改めて手元に届き、無事に読了。

初見ではなかなか読み進めることができなかった作品。

少し特殊な作品かもしれない。作品に内包される情景と読者の想像力が共鳴してようやく、物語に踏み込んでいくことのできるかのような。言い表すなら「魔術」というか。

100を越える断章の集積。まるで、河原の一角に積み上げられた石の山のように、それらの断章が散りばめられ、時には交錯し、時には時間を超えて接続する。

最後のページに辿り着いた時、立ち上がる情景。走馬灯のように、時を駆け抜けたような感覚。

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ポーランド生まれの作家、オルガ・トカルチュク。

ポーランドという国は、作家の表現を借りると「中欧」に位置する国。日本では一括りに「東欧」に分類されてしまうけれど。

そして、歴史に弄ばれていた国。

そのような国に生まれた作家にとって、この作品に通底するテーマである「移動(旅行)」「時間」はとても大切なもので、それを作品に昇華するという行為はおそらくは自然なこと。この後書きによる説明を読んで納得する。

ポーランド国内では2008年に刊行。邦訳版は2014年刊行。

決して新しい作品ではないけれど、古びるどころか、時代に呼応して常に新鮮味を失わない作品。

2018年にブッカー国際賞、そして同年のノーベル賞を受賞。いずれも相応しい作品。


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