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102_『ひかりの歌』 / 杉田協士

153分という上映時間に逡巡してしまったものの、この作品を観ることを選ぶことができて本当に良かった。

冒頭のシーンから引き込まれてしまった、その理由には、そのシーンの舞台になっているのが豊前坊だったことが少なからず影響していて、映画が始まった瞬間から、豊前坊の優しさというか温かみというか、その特有の雰囲気が現出したので、その瞬間から作品の世界にすっかり没入してしまった。

お店に行ったことのある人だったらわかってくれるはず。

それにしても、お店の雰囲気がそのままに伝わってくるなんて、豊前坊の空間には特殊な力が内包されているのだなあ、と改めて気付く。

作品は、オムニバス形式で紡がれる四遍の映像による連作。それぞれに俳句がタイトルとして充てられていて、それらの句の醸し出す空気感が映像に同化している。

人生において、ある地点に留まり続けることは不可能で、学校を卒業することだったり、転居することだったり、旅をすることだったり、仕事を辞めることだったり、あるいは走り続けることもそう。

何気なく過ぎる毎日にも、変化の芽は生まれ出る。

そして、その芽が大きくなった時に、人は変わることを避けられないし、どのようにその変化に向き合うかは、個々が答えを見つけなければならない。

監督の作り出す空気感に影響されているからか、役者陣の演技がとても自然体で、作品を観ているというよりは誰か知り合いの話を聞いているかのような感覚。

こんなにも素晴らしい監督がいたことに驚くし、嬉しくもあるし、役者陣には心からの拍手を送りたい。

商業的成功は名作の条件の一つではあるので、その点においては足りない部分はあるものの、名作と呼んで間違いなし。

ひかりの歌
監督・脚本:杉田協士
出演:北村美岬、伊東茄那、笠島智、並木愛枝ほか
制作年:2017年
制作国:日本
上映時間:153分


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