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屋上のメッセージ

地元の公立高校に通う高校2年生の澪(みお)はどこにでも起こる普遍的ないじめと孤独を手取り早く解消するため、学校の屋上に登っていた。

長い黒髪をハーフアップで結んでいる彼女は、所属する陸上部でも「期待の新人」と称され、小さいころから学業成績も良く、快活な性格で友人からの信頼も厚かった。順風満帆だった。しかし、どこかで彼女の歯車は狂ってしまった。

春の午後、学校の屋上から見える薄曇りの空は、柔らかな光を優しく校舎に降り注ぎ、長い冬の名残をそっと追い払っていた。桜の花びらが風に舞い上がり、時折静かに屋上に降り積もる。

屋上の片隅には古びたベンチがひっそりと佇んでいる。そこに腰掛けると、遠くで聞こえる生徒たちの笑い声や運動場での掛け声が、かすかに耳に届く。しかし、ここは別世界のように静かで、時間が止まったかのような錯覚を覚える。

手すりにもたれかかり、遠くの景色を見つめると、青々とした山々と広がる町並みが一望できる。目に映る全てが、どこか懐かしく、同時に遠く感じられた。

「よし」

澪がぽつりとつぶやくと、ベンチから立ち上がり一直線でフェンスに向かった。

重い感情が渦巻いていた。これまでの苦しみ、孤独、絶望。全てが彼女をここに導いた。彼女は一歩一歩、フェンスに近づき、手を伸ばして冷たい鉄柵に触れた。その瞬間、心臓が一つ大きく鼓動した。

フェンスを乗り越えようとしたその時、ふと目をやると彼女の目には床に刻まれた文字が飛び込んできた。古びていてかすれていたが、確かにそこにあった。彼女は一瞬、動きを止め、その文字を見つめた。

死にたいほどのつらさを抱えて人生を生きる勇気ある者よ。死ぬことは止めることなど誰ができようか

「もしかしたら、まだ何か他に文字があるのかもしれない。」彼女はそう思いながら、フェンスから手を離し、一歩後退した。

それと同時に澪は床に刻まれた文字の周囲を見渡しながら、心の中でその言葉をなぜか反芻していた。「死にたいほどのつらさを抱えて人生を生きる勇気ある者よ。死ぬことは止めることなど誰ができようか」

「誰が書いたんだろう…」

澪は心の中で呟いた。誰かがここで同じような絶望を感じながらも、何かを見つけて生き続けたのだろうか。彼女はその文字に触れるように手を伸ばし、指でなぞると、その感触は冷たくもあり、温かくもあった。

「まだ、何かがあるはず…」

しかし、その文字は一向に見つからない。

すると校内に響き渡るチャイムの音が聞こえた。その音は、授業の始まりを告げるものであり、澪の心に現実を引き戻すかのような響きを持っていた。

「もう、戻らなきゃ…」

彼女は小さく呟き、屋上の出口に向かって歩き始めた。風に揺れる長い黒髪をハーフアップで結んだまま、彼女は屋上のドアを開けると、階段をゆっくりと降りていった。


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