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2023年JリーグYBCルヴァンカップ第5節 vsサガン鳥栖@駅前不動産スタジアム

W杯の影響でいつもより長いオフに退屈していた1月下旬、例年通り新シーズンの試合日程が発表された。開幕戦から順々に対戦カードをチェックし、月毎のアウェイ遠征予算を組んだり、有給の申請をいかに少なく済ませるか(社畜的思考)など、新シーズンへのイメージと期待を膨らませるのがサポーターの一般的なルーティーンだ。

「おっ、アウェイ藤枝戦は水曜日なのか…」

なんて思いながら視線を落とすと、そこには静かに異彩を放つ対戦カードが組まれていた。

「まあ年一くらいは平日の九州アウェイもあるわな」と初めは余裕をかましていたが、これが単なる水曜ナイターのアウェイ鳥栖戦ではないということに少しずつ気がつき始める。

説明しよう、このマッチメイクのヤバさを。

  1. J2の立場で参加してるルヴァンカップ(つまりプライオリティ激低)

  2. グループリーグ5戦目なので結果次第では消化試合になってる

  3. 三日後に再び九州アウェイの長崎戦

2が地味に嫌だな…なんて思っていたらグループリーグで4連敗を喫して早々に敗退決定。チーム状況的にカップ戦に割く余力がないのは当然なので致し方なしだが、おかげで鳥栖戦は世間一般で言うところの「消化試合」になった。

ジュビロ磐田のエンブレムを胸に戦う以上は捨ててもいい試合なんて一つもない、と心の底から思っている。しかし、全試合100%のモチベーションで臨めるか?というと選手だって難しいはずだ。だって人間だもの。
サポーターも限られた予算でやりくりしているわけで、三日後に控えたリーグ戦の長崎と天秤にかければどちらに傾くかは考えるまでもない。

これはどう考えても今季最少人数のアウェイになる…。そして遠征バカを自負する筆者としては、こんな美味しい試合をみすみす逃す手はない。


当たり前だが、駅前不動産スタジアムのアウェイ待機列は閑散としていた。うちのグループからも今回は二人のみ。先行入場でさっさと幕貼りを終えてのんびりしつつ、いつものように待機列に現れた社長を囲んでみんなで立ち話をする余裕まである。
どうやら次の長崎戦まで九州に滞在するサポーターが結構いるらしい。三日も休みを取って会社から嫌味の一つも言われないのだろうか(社畜的思考)。僕は有給申請を出す勇気がなかった腑抜けなので、木曜朝イチの便で東京へ戻って土曜日に再び九州は長崎に乗り込む予定だ。サイコロの旅かよ、と一人で突っ込みたくなるような旅程だが仕方ない。

アウェイゴール裏チケットの売れ枚数は70枚弱だそうだ。多いのか少ないのかは分からないが、どちらにしたって要はガラガラである。あまりに人がいないので、たまたま隣になった旗振りのお兄さんになんとなく声をかけてみると、なんと数年前に縁あってSNSでやり取りしたことがあった人だった。なんて狭い世界だ。

応援の中心部に集まったのは多く見積もっても20人ほど、そして旗は3本。ピッチで戦う選手に声を届けるには、普段のゴール裏と同じテンションでやっていては到底足りない。どうせなら出来るだけのことはやり切って帰ろうと決めた。
とはいえ、これだけ人が少ない応援環境が久しぶりすぎて、声の出し加減がなかなか掴めずめちゃくちゃきつい。学校の1クラス分よりも人数が少ないので、誰かがサボるとすぐにバレる。一人にかかる比重が合唱コンクールばりに重い。

ハーフタイムに「少ない割に俺ら声出てるんじゃね?」なんて話していたが、こうして見ると普通に人数相応だったようだ…。

さすがの鳥栖もリーグ戦ほどの強度はないようで、意外とやれるなと思っていたら俺たちのファビゴンが復帰後初ゴール。思えば去年のホーム鳥栖戦でも彼は大暴れしていたので相性がいいのかもしれない。これで先日のパネンカ事件は水に流すことにしようと思う。
記憶が正しければ2017年以来6年ぶりに鳥栖で得点を奪ったことになる。ここでリードすることに慣れていないのでゴール裏は(というか筆者は)早くも浮き足立っている。

後半は相手に押し込まれる時間が続き、なんとなく嫌な空気が漂っていた矢先にまさかの金子翔太によるヘディング弾が炸裂、追加点。狂喜する約70人のアウェイゴール裏。そりゃそうだ、こっちはこの瞬間を味わうためにわざわざ鳥栖まで来たんだから。

後半アディショナルタイム、選手でもないのにふくらはぎが攣って崩れ落ちそうになったが、なんとか終了の笛まで耐え切った。2-0、完勝。

複数得点、クリーンシート、怪我人の復帰と若手選手の活躍…出来過ぎなくらい完璧だった。この一戦を無為に消化することなく、今後に向けてしっかりと活かすことが出来たと思う。

そしてなにより、過酷なアウェイゲームを勝ったときの高揚感は格別だ。こういうときにしか精製されない、なんか分からんけどすげえ脳内物質みたいなものが存在しているに違いない。いつの日かACLのアウェイで勝ったりしたらショック死するんじゃないかと半分本気で心配している。幸か不幸か、しばらくは死なずに済みそうだが…。

「もし今日勝てたら現地は勝ち組だな」みたいなシチュエーションであっさり負けるのがいつものジュビロ磐田だけれど、通い続けているとこんなご褒美みたいな試合があるからフットボールはやめられないのだ。

初めて僕がこのスタジアムを訪れたのは2013年11月、最初のJ2降格が決まったあの試合だ。あれからあっという間に10年弱。個人的にはゴールすら見れていなかったこの鳥栖スタジアムでようやく初勝利を掴むことができた。
生きるか死ぬかのリーグ終盤戦と消化試合のルヴァンカップでは試合の持つ重みがまったく違うけれど、この世の終わりみたいな気分で帰ったあの日の呪縛をようやく断ち切れたような気がした。

Kz Ishii (Instagram : kz_ishii)

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