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エミーナの朝(7)

ナゴンの恋人 1

 今日も、心療内科クリニックにカウセリングを受けにクルマで出かけた。

 駅の前を通過しようとした時、ナゴンの姿が駅のエスカレーターを昇っていくのが見えた。

 男性と一緒だった。

 一瞬なので、ハッキリしないが……似ている、似ているのである。
 先立った夫に……

 クリニックの駐車場にクルマを置いて、駅まで走った。

 通行人を押しのけ、跨線通路まで駆け上がり、通路の窓から、ホームを眺めた。

 遠い位置に笑い合っている二人が見えた。男性は背を向けている

布鈴鉄道·布鈴中央駅/ぷぅべる

 たしかに、後ろ姿は夫に似ている。夫には兄弟はいない。誰、だれなの……

 どうしてナゴンが夫と……

 ナゴンに電話するのは怖かった。そのまま、カウンセリングを受けずに、家に帰った。

 その後のことは、気が動転して、頭の中で想像が駆け巡り、何もできなかった。


 目が覚めた。

 明るくなっているが、それで目が覚めたのではない。わたしのベッドに、わたしの隣に誰かいる。

 隣を見た。なんとナゴンが居る。起きた私を見て、「エミリン、起きた?」と笑顔で言った。

フォトスタジオ/エミーナ

 ここは確かにわたしの家だ。しかもナゴンが居る。わたし、また発症したの?

 ナゴンは、わたしをハグしつつ、
「久しぶりに夢遊状態でアパートに来たわよ。
 わたしが出ていくと、あなたはわたしをクルマに押し込んで、この家へ来てしまったの。
 引っ張られるままに、部屋のドアに鍵をかけるの大変だったわよ。
 それで、この家に着くと、わたしの手を握ったままベッドで寝てしまったの。だからここに居るのよ、わたしは。
 エミリン、どうしたの。何かあったの?」

 わたしは、駅で見た情景を思い出した。私が目をそらして黙っていると、

 ナゴン「やっぱり、何かあったのね」

 エミーナ「あの人は、だれ?」

 ナゴン「あの人って?」

 エミーナ「駅で一緒にいたでしょ」

 ナゴン「……あ、彼のこと」

 エミーナ「わたしの夫よね」

 ナゴン「え……、なに言ってるの?」

 エミーナ「あなたが付き合っているのは、わたしの夫よねっ!」

(エミーナの朝8へつづく)


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