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私立大学の研究力を社会にどう広めるか?具体例を強烈に推す、近畿大学の正月広告の凄さを考える

明けましておめでとうございます。大学に関わる正月の楽しみというと、箱根駅伝もそうですが、新聞に掲載される各大学の広告というのもあります(ないですかね…?)。年々、掲載数が減ってきているように感じ、さびしくはありますが、それでも各大学の特徴が色濃く出ているので見ていて飽きません。

今回、取り上げるのは、そんな新聞広告のひとつ、近畿大学の新聞広告です。実は昨年1回目のnoteも近大の新聞広告を取り上げていて、図らずとも2年連続です。この大学の広告はバリバリに尖っていて、取り上げないわけにはいかない力があります。恐るべし近大…。では、どんな広告なのか、まずはこちらをご覧ください。

2024年1月3日掲載された近畿大学の新聞広告(Kindai Picksより)

インパクト大の新聞広告の裏側を記事で丁寧に解説

強面のおじさんが、グッと寿司をつきだす広告は、パッと見、大学っぽさは皆無です。ちなみにこのおじさん、北九州の人気店「照寿司」の3代目・渡邉貴義さんという方で、かなりの有名人。なぜ、この方を起用したのかや広告制作の裏側については、Kindai Picksに詳細記事が載っています。興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください。

新聞広告の裏側をKindai Picksで伝えるというのは、昨年の正月広告でも行われていたのですが、手法としてすごくいいように思います。新聞に全面広告を出すと、ものすごく費用がかかるけど、見てもらうのは一瞬です。そこに込めた想いやメッセージが正しく伝わるかどうかわからないし、できればせっかくなので広告効果もより高めたい。オウンドメディア、さらにはSNSも連動させることで、そこらへんのフォローが上手くできるように思います。

1つの研究成果に絞って正月広告をつくる意味、つくれる凄さ

では、今回の新聞広告、何を伝えているのでしょうか。これは「あんたも知らん間に、近大を食べてんねんで。」のコピーと、その間に挟まっている文章を読むとわかります。今回のネタ(寿司がテーマだけに…)は、近大が産んだ養殖真鯛です。この真鯛がいかにして生まれ、現在の真鯛養殖に貢献しているかを、近大弁ともいえるクセの強い関西弁でわかりやすく端的に語っています。また表現こそユニークですが、その芯には近大の建学の精神である「実学教育」があることが見てとれます。

今回の新聞広告から感じたのは、16学部あるような総合大学が、正月のタイミングに1つの研究に絞って全15段の新聞広告を出す、そういう判断ができることと、それに耐えうる研究があることの凄さです。しかも、これ、今回がはじめてではなく、過去に近大マグロ(2013年、2014年、2015年)、近大ナマズ(2016年)と、けっこうやっているんです。

2015年に掲載された近畿大学の正月広告(近畿大学HPより)
2016年に掲載された近畿大学の正月広告(近畿大学HPより)

少し脇道にそれますが、正月に3年連続で近大マグロの全面新聞広告を出すのって、考えてみたら、これ、よっぽどですよね。でもこの期間があったからこそ、近大マグロが認知され、いろいろな情報発信で“振り”として使えるようになったんだと思います。今回の新聞広告でも「ええ、マグロと違います。」と、近大マグロを踏まえた展開ができている。こういう表現を随所に入れ込むことで、近大マグロの認知がさらに上がりますし、表現にも幅が出ます。真似できるかは置いといて、広告という意味でも、近大マグロの存在は大きいように感じました。

私立大学が、研究力を社会に伝える数少ない方法

……話を本筋に戻します。今回の広告で伝えたいメッセージをものすごく煮詰めると「実学」そして「研究大学」という言葉が残るように思います。研究力は、科研費の額、研究者の受賞、プレスリリースの質や量、大学ランキングなどで社会にアピールできるものの、社会の大勢がこれらを注意深く見ているかというと、そうではないと思うんですね。もっとわかりやすく、説得力があるものでないと、心に残らない。そう考えると、あれこれ伝えるより、象徴的な具体例をひとつ取り上げて、それをできるだけ強烈に伝えるという今回の手法は理にかなっているし、正月に出すことで強烈さにバフをかけられているように思います。

さらにいうと、研究力の総合力(?)で勝負するのって横綱相撲なわけで、それができるのは選ばれしトップ研究大学だけです。ただでさえ研究大学のイメージが弱い私立大学が、研究力の高さを伝えるには工夫や戦略が必須です。

近畿大学は、近大マグロ、近大ナマズ、しばらくの空白期間を経て今回の養殖真鯛と、表現こそ違えど同じアプローチの正月広告を繰り返しています。おそらくそれは、たまたまではないでしょう。そしてその結果として、中堅私立大学としては異例なほど、近大の研究力の高さは社会に知れ渡っています。実際に良い研究があることと、それが社会に伝わっているかは別問題です。研究成果で社会をぶん殴るような強烈な広報活動でもしないと、なかなか社会に情報もイメージも伝わらないのかもしれません。

新聞広告を単体で見ても面白いのですが、今回のように長い目で見てみるのも発見があって興味深いです。やっぱり大学のイメージ形成は、すごく気の長い取り組みなんだと、あらためて思い知らされました。

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