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近畿大学の新聞広告から考える。影響力のある大学が、わざわざ正月に広告を出してまで伝えるべきこととは何なのか。

明けましておめでとうございます。正月の新聞に、どの大学のどんな新聞広告が載っているかは、大学業界で働く人の密かな関心事ではないでしょうか。新聞の発行部数が大きく減ってきており、ひと昔前ほど大学の広告が目につかなくなってきていますが、それでも大学の“今”を知る貴重な情報源です。そして、そんな大学の新聞広告のなかで、毎年、目につく大学というと、そう、近畿大学です。今年のものも印象的だったので、新年一発目はこちらを取り上げていきます。

Kindai Picks「今年の近大新聞広告はAIが制作!?情報学部1年生が、話題の「Stable Diffusion」で近大生を生成してみた」より

見事なストーリーが展開される新聞広告

今回、近大の新聞広告は背景のモデルが異なる合計6種を、『日本経済新聞』『産経新聞』『毎日新聞』『朝日新聞』『読売新聞』『スポーツ報知』『日刊スポーツ』『サンケイスポーツ』『スポーツニッポン』『デイリースポーツ』『夕刊フジ』の11紙に掲載したとのこと。

まず、この広告で目につくのが「上品な大学、ランク外。」という大きな文字。このフレーズが面白いのは、これがキャッチコピーになっている=たくさんのランキングでランク内に入っている、ということが何となく伝わってくることです。どのランキングでも箸にも棒にもかからないのであれば、このフレーズに意味はありません。あれもこれもランキングに入っているのに、というニュアンスが言外にあってこそ、このキャッチコピーは成立します。

そして、キャッチコピーの下にギッチリと敷き詰められたリード文に、どういうことがランク内に入っているかが、近大節(?)で語られています。このはじめに落として、あとで上げるというのが、なんとも関西っぽいです。

でもとはいえ、です。広告では「上品な大学、ランク外。」の大きな文字とともに、学生らしき若者のビジュアルがドーンと掲載されています。このコンプラが煮詰まった世の中にこんな表現をすると、この子は近大生=下品(やや大げさ)なのか?という見方をする人もいると思うんですね。よく学生さんは協力してくれたなあ、と思って広告を下まで読んでいくと、「この人物画像は、(中略)AIに実在する近大生の顔写真200名を学習させて生成した“近大生”です」の文字とともに、舞台裏の記事に飛ばすQRが掲載されています。ビジュアルのインパクトというより、この1面の中でよくまあこれだけ上手にストーリーを展開させられるなと、関心させられるつくりになっていました。

とても真っ当で、でも挑戦的なメッセージ

新聞広告のクオリティやアイデアについて長々と書きましたが、これは前座で本当に伝えたいことはここからです。この広告の注目すべきところは、「上品な大学、ランク外。」、つまり、上品さを大学に求めている人は来なくてよろしいということを、けっこう明示的に伝えているんですね。大学から受験生へのメッセージの多くは、「夢を叶えられる場所」とか、「ここでなら見つかるあなたらしいあなた」みたいな、玉虫色で人を限定しないうえ、“来て欲しくない”側ではなく“来て欲しい”側に向けて発信します。今回の近大のキャッチコピーはこの逆で、そこそこ具体的に、なおかつある種のニーズを持っている受験生に来なくてもいいと、少なくともそういう受け取り方もできるメッセージになっています。

これまでの近大の広告や情報発信も同じスタンスでしたが、それでも暗に(しかしわかりやすく)、それを表現しているところで留めていました。今回は、そこから半歩前に出て、より明確に伝えてきた印象を持ちました。

そして、この視点でリード文を読んでみると、近大のPRというより、なぜ近大が上品さを求めないかの説明に読めてきます。で、ここでまた面白いのは、その理由の根っこにあるのは建学の精神だというところです。つまりこの広告は、一見ものすごくコミカルだけど、伝えているのは、近大が建学の精神に則った大学運営をしていて、この精神に共感する人材を欲しがっている、というすごく真っ当なメッセージです。

「関関同立」という”くくり”をぶっ壊すメッセージ

やや繰り返しになりますが、何が学べるか、どんな魅力があるかは、どの大学でも伝える広告の切り口です。ここに、どんな人材が欲しい(もしくは欲しくないか)という、マッチングの視点を具体的に入れてきたのが、今回の近大の広告の最注目ポイントです。

近大はやることなすこと思い切っていて、大学業界で異端児的なあつかいを受けているものの、強い影響力を持つ大学であることは違いありません。この近大が受験生募集における、マッチングの視点を重視していくと、他の大学もこれまで以上に意識せざる得なくなるでしょう。これが進んでいくと、志願者数や受験者数が多いということが、単純に良いことだと評価されなくなる可能性があります。無分別に受験生を集めている、そう捉えられるようになるかもしれないからです。そして、志願者数や受験者数が多いことへの価値が薄れると、結果的には偏差値が“ものさし”として機能しなくなっていきます。

近大は、以前より「関関同立」という“くくり”を崩すことに力を入れてきました。「早慶近」の新聞広告なんて、まさにそんな視点だったと思うのですが、これよりも今回の広告の方がよっぽど“くくり”を崩すのに効果的なんじゃないでしょうか。それに何より、この広告に込められたメッセージは近大の志願者だけでなく、すべての受験生にとって良い気づきを与えるものになっています、そこがとても素敵です。影響力のある大学がやるべき広告、とくに正月という注目されるタイミングにわざわざやる広告として、これはふさわしいものだと感じました。

近畿大学公式サイト 広告アーカイブより


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