見出し画像

近畿大学のスタートアップ支援から考える。インキュベーションの場としての大学特有の強みとは

岸田内閣が、2022年を「スタートアップ創出元年」に位置づけるなど、近年スタートアップへの注目がにわかに高まっています。これに合わせるようにスタートアップを支援する動きが社会のあちこちで強まっているのですが、大学もまたその一つとして、さまざまな動きが加速しているように思います。今回、近畿大学のスタートアップ関連のプレスリリースを見て、大学はインキュベーションの場として特有の強みがあるなと、ひしひしと感じました。スタートアップへの機運が高まるなか、大学がどのように存在感を示すのか、これを考えるうえで近大の取り組みは良いヒントになりそうです。

学生が学内で飲食店を起業する、近大の起業支援プロジェクト

今回、取り上げるプレスリリースは、近大の学生飲食店起業支援プロジェクト「KINDAI Ramen Venture 近大をすすらんか。」の初代店舗の決算発表です。同プロジェクトは、近大の学生がキャンパス内で学食を起業・経営し、起業のリアルを学ぶというもの。ちなみに学生が学食経営をして起業を学ぶというプロジェクトは、千葉商科大学でも取り組んでおり、以前、ほとんど0円大学で取材したことがあります。やや脇道に逸れるのですが、参考情報としてご案内をしておきます。

で、話をもどして、近大のプロジェクトです。同プロジェクトの初代店舗の経営者である近大農学部の西さんは、以前より「すするか、すすらんか。」というラーメン店を経営していたり、プロジェクト期間中に「株式会社やるかやらんか」を立ち上げるなど、新進気鋭の経営者のようです。近大内の店舗を経営した1年6カ月で、31,622杯のラーメンを提供し、6,306,414円の純利益をあげるほか、企業や近大の経営学部と産学連携も行っており、実績としてかなりのものを挙げています。

大学という環境をいかにして起業の追い風にするか

西さん個人の能力の高さというのを差し引いて考えないといけないのですが、それでもこの近大のプロジェクトの成果を見ていると、インキュベーションの場としての大学はすごく可能性があるように思います。学外のインキュベーション施設であれば、メンターからアドバイスをもらえたり、比較的低価格でオフィスを借りれたり、入居者や来訪者との交流から人脈づくりができたり、といったことがメリットとして挙げられます。大学の場合、これらができるほか、研究シーズの活用が比較的容易というのもあるし、何よりいち施設を越えて、まわりの環境全体が好意的というのが、学生のスタートアップという経験値が少なく不安が多い状況での起業において、めちゃくちゃプラスなのではないかと思うのです。

今回の近大の店舗であれば、同じ近大生がやっている店だから食べに行くか、という近大生や教職員は多いと思います。それに友達はもちろん、直接は知らない近大生や教職員からの応援というのも直に伝わってくるはずです。先ほど、企業や近大の経営学部との連携があったことについても触れましたが、実績のない立ち上げてすぐの店舗がこれら連携をできること、そして連携したことや決算発表がプレスリリースとして大学が社会に発信してくれることなんて、まさに応援される環境ができていることの証のように思います。

そして、今回の近大のスタートアップの場合、飲食という近大生が顧客になりえるBtoCビジネスだったことも、大きな追い風になったように思います。これがBtoBビジネスだったら、大学という環境の恩恵は、ここまでは受けなかったのではないでしょうか。そう考えると、プロジェクトの設計段階で飲食店にテーマを絞っておくというのは、かなりいいやり方のように思えました。

”起業を支援する”と”起業を学ぶ”は似て非なるもの

初代店舗を経営した西さんが、プロジェクトの途中に立ち上げた「株式会社やるかやらんか」は、Z世代を対象にした飲食、クリエイティブ、イベント事業の会社になり、飲食を専業にしているわけではありません。学生のなかには、起業には興味があるけど、飲食には興味がないだよなー、という人もいそうです。そういう人にとっても、起業するうえで大学との相性がいい飲食でまず起業の経験を積み、その知見を活かして自分のやりたいジャンルで起業をするというフェーズ分けを伝えられるなら、非常に魅力的なプロジェクトに見えるように思います。

そもそも、学生の起業を支援するのと、学生に起業を学ばせるのは似て非なるもので、後者ができるのは、大学ならではの強みなように思います。近大のプロジェクトは1店舗1年という時限制で回しており、起業を学ぶことに徹しているように感じました。

スタートアップが今後さらに加熱していくなら、インキュベーション施設の数もさらに増えていく可能性があります。そういったなかで大学が独自の存在感を発揮するには、強みやメリットをもっと自覚し、研ぎ澄ましておく必要があります。国立の研究大学であれば、研究シーズがたくさんあるので、それを軸に考えるのがいいでしょう。私立大学の場合は、自大学の強みを意識しつつも、教育に軸足を置いて考えるのがいいのではないでしょうか。今回の近大の取り組みは、私立大学がインキュベーションの場としてどうあるべきかを考えるうえで、よい参考になるように思います。近大は、こういうのが、ほんとうまいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?