とにかく伝えたい愛がすごい!卒業生でなくても、つい没入してしまう拓殖大の歴史紹介特設サイト。
大学であれ、企業であれ、節目を迎えるタイミングに周年誌や周年サイトを作成するところがよくあります。大量の情報を編纂するのは骨が折れる作業ですし、定期的に過去の情報を整理するのは、それだけで意義のある行為です。ただ、いち組織の歴史を取りまとめるだけでは、なかなか万人が読みたいと思えるものにならないのが、実際のところだと思います。よくよく読めば面白いんですよ。でも、その面白さを表現するのには、かなりの工夫と思い切りが必要です。今回、見つけた拓殖大学のサイトは、歴史を面白く伝える、という意味では、卓越しているといっていいサイトです。拓殖大学と縁もゆかりのない私がぐいぐい読んでしまったのだから、これはほんとに本物です。
じゃん。サイト名は「拓殖大学歴史ミュージアム」。まず名前がいいですよね。タイトルを、○○大学周年記念サイトとか、○○大学の歴史、とかにしてしまうと、その大学の関係者に向けたコンテンツという印象が出てしまいます。ミュージアムという言葉には、外部に開けているというニュアンスがあるので、学外の人にとってはこのようなタイトルがついているだけで、少しとっつきやすいのではないでしょうか。
歴史を伝えるうえで陥りがちなのは、歴史の重厚さを伝えたいために、また取り扱う情報が大学の根幹に関わるもののため、格式のある表現で伝えようとしてしまうことです。多くの読者は、どうしてもその大学の歴史を知りたいわけではないので、かた苦しい表現が目に飛び込んでくると、それだけで読む気がそがれてしまいます。
拓殖大の場合、ここが大きく違います。かっこつけず、とにかく楽しく歴史を伝えようとしている。伝えたい愛がすごい。これは文章の軽妙さであったり、イラスト表現を多用していることであったり、よく探してきたなぁと感心せずにいられない大量の歴史トリビアなどからうかがえます。なかでも、感心したのは「拓大人物図鑑」です。
拓殖大学の偉人たちがならぶ「拓大人物図鑑」
黒をベースにしたシックなページに並ぶのは、拓殖大の初代校長である桂太郎、第2代学監・新渡戸稲造、第12第総長・中曽根康弘などなど。あの人もこの人も実は拓殖大の関係者なんだと驚いてしまいます。このそうそうたるメンツのなかに、ひときわ笑顔のおじさんがいるのですが、これ、綾小路きみまろなんですね。いや、綾小路きみまろもすごいですよ。中高年のアイドルです。でも、ここに並ぶタイプではないだろーと……。校長室の壁に並ぶ歴代校長先生の顔写真をボーッとみていたら、そのなかに、割烹着姿のおかんがいたぐらいの衝撃です。いやもうこれ、ほぼ間違い探しです。いじりにくい歴史コンテンツ、しかも大学の偉人たちを紹介するコンテンツで、こういう変化球を投げられるのは、ユーザーを楽しませたい、伝えたいというラブ以外の何ものでもありません。
中高年のアイドル、綾小路きみまろもまた拓殖大の偉人の一人なのである
あと、このサイトには「たろーさんに聞いてみよっ♪」というショートムービーが掲載されているのですが、このコンテンツもすごく気になります。ムービーは、たろーさんこと初代校長・桂太郎がナビゲーターとなり、拓殖大の偉人の業績をゆるく、かつ端的に伝えるというもの。それぞれのムービーの最後に「拓大ミュージアムで検索!」というアナウンスが入っています。これがあるということは、ムービーを広告として利用しているのかもしれません。オープンキャンパスや入試告知の広告はよく目にしますが、もしこのサイトの認知拡大のために広告を打っているとしたら、拓殖大の歴史を伝えたい熱意はだいぶです。
「たろーさんに聞いてみよっ♪」はムービーのできもかなり良い感じ
大学の歴史は伝わる人にだけ伝わればいいという閉じたコンテンツの印象があったのですが、工夫とパッション(とある程度の予算)があれば、これだけ面白いものができるのかというのは、ちょっと目からウロコでした。また、自大学の歴史は教職員であっても、あまり知らないということが多々あります。これだけ熱烈に発信したら、学内での自大学の歴史の理解も深まるのではないでしょうか。少なくとも私が職員だったら、こんなに熱烈に歴史を伝えようとしていたら、ちょっと見てみようかという気になります。
コロナ禍で社会が大きく変わり、オンライン教育が発展したことで、学ぶ意味であったり、教育の方法は急激に多様化してきています。こういったなか、大学は何をめざして進んでいくべきなのか、それぞれの大学で今一度考えるときがきたように思います。行くべき道を見つけるために、来た道を振り返るのはとても重要な行為です。大学の魅力発信の一環としてだけでなく、自分たちの大学の歴史を振り返るための施策としても、拓殖大のサイトは参考になるのではないでしょうか。
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