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拓殖大学の学食割引制度から考える。成長につながるセレンディピティと出会えるキャンパスづくりの第一歩。

コロナ禍になりオンライン授業が普及したことによって、キャンパスの価値が返って強調された側面があります。一方、今後オンライン化が進んでいくと、キャンパスに行くためには、何かしらの理由が必要になってくるのかもしれません。では、学生がキャンパスに行く理由をどのようにつくるのがいいのでしょうか。今回、見つけた拓殖大学の取り組みは、この理由づけを強力かつ斜め上からやってのけているように思い、面白く感じました。難しく考えず、こういうのでいいと思うんです。

このご時世だからこそ意義深い、学食の大幅割引

拓殖大学の取り組みがどんなものかというと、およそ2週間、在学生限定で学食を7割引にするというもの。100円朝食はいろんな大学で以前からやっていますが、これはそれと違って、朝昼晩、場合によってはおやつだって、すべてが7割引になります。これって、すごいことのように思います。

現在、びっくりするくらい物価が上昇しており、とくに光熱費の上がり方は目を見張るものがあります。実家暮らしの学生はともかく、一人暮らしの学生にとっては、かなりの負担です。大学にいれば光熱費の心配はいらないし、ネット環境だって整備されている。学食だって、外で食べるのに比べるとだいぶ割安です。そして、一人暮らしの学生が大学に居着くと、その学生と仲のいい実家暮らしの学生も大学にいる時間が伸びていき、波及的に多くの学生が大学に長く滞在するようになるように思います。

学びとはまったく関係ない理由になりますが、学生が大学に居着きやすい状況が、図らずもここ最近急に出来てきているように思うのです。拓殖大の思い切った学食の割引は、この状況を加速させることができる、シンプルだけど効果的な取り組みのように感じます。

成長のセレンディピティは、学生が居着いてこそ生まれる

キャンパスの価値を高めるという視点で話をしていると、対面ベースの議論やワークショップといった双方向性重視の教育プログラムをつくることや、その活性化に話がいきがちです。たしかにこれはとても大事なのですが、こういった具体的な内容に落とし込めないところにも、キャンパスの価値は潜んでいるように私は思っています。

これを強引に言語化するなら、成長につながるセレンディピティがいたるところに落ちている、みたいなことでしょうか。明確な意志をもって、これを身につける、あれを学ぶ、といったことは自分の頑張り次第で何とでもなります。でも、思いもよらない出会いや経験というのは、自分ではどうしようもありません。キャンパスには、このどうしようもないけれど、とても大事な成長のきっかけがたくさん転がっています。これが隠れた大きな魅力だと思うのです。

しかし、こういった曖昧な魅力というのは、体験してはじめてわかることだし、キャンパスに多様な人がいてこそ起こりえます。今の学生たちは入学したときからコロナ禍で、オンライン授業が取り入れられた環境で学びはじめており、キャンパスにこういう魅力があるという認識をあまり持てていないのではないか。少なくとも、コロナ前の学生に比べて実感する機会が大きく減ったように思います。

加えて、今後さらにオンライン化が進んでいくと、キャンパスに長居しない(そもそもあまり大学にこない)学生が増える可能性も十分に考えられます。そうなっていくと、徐々にこの魅力は失われていき、いつしか誰も認識しなくなり、最初からそんなものはなかった……、みたいな状況になる可能性だってありうるわけです。そうなってしまったら、大学にとってすごく大きな損失です。

キャンパスをそんな環境にしてしまわないためには、たくさんの学生がキャンパスに居着くことが必要です。今回の拓殖大の取り組みは、そのきっかけとして非常に有効そうです。とくにこの取り組みだと、これといった目的のない学生も大学にいるようになるのがいいんです。目的のない学生にこそキャンパスで目的に出会ってほしいし、いろんな学生がとにかく居着くことが多様性をつくる上でとても大事だと思うからです。

念のため付け加えておきますと、拓殖大の取り組みは、物価高に対応した学生支援のために行っています。学生をキャンパスに長居させるというのは、筆者が勝手に感じ取った副次的な効果です。でもそうはいっても、これができる良い取り組みだと思うんですよ、ほんとに。

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