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学問を”スパイス”として扱う?学問に無頓着な人にも響く公開講座、龍谷大学の「RYUKOKU CINEMA」を考える。

大学の公開講座というと、気軽に学問の世界に触れる機会、みたいな位置付けだと思います。今回、見つけた龍谷大学の取り組みも、この範疇に入るのですが、ちょっとアプローチが違うんですよね。こういう学問の伝え方も、門戸を広げるうえでは、けっこうアリなのかなと思いました。

ではどのような取り組みなのかというと、これは「RYUKOKU CINEMA(龍谷シネマ)」といって、映画の上映会とレクチャーがくっついているんです。すごいのは、上映される「桜色の風が咲く」という映画が全国ロードショーされる前の作品なうえ、本イベントの参加費は無料。さらに、レクチャーに登壇する福島智先生(東京大学先端科学技術研究センター教授)は、この映画のモデルになった世界で初めての盲ろう者の教授。イベントとして、これはかなり豪華なのではないでしょうか。

だけど、今回、考えたいのは、このイベントの豪華さではなく、レクチャー(=学問)の使い方です。多くの公開講座は、学問そのものに興味がある人を呼び込みますが、今回のイベントだと「桜色の風が咲く」という映画に興味を持つ人たちを呼び込み、そこに学術的なエッセンスを足すことによって、映画に対して新たな視点を提供します。こういう表現が正しいのかどうかはわからないのですが、学問が主菜ではなく、主菜を引き立たせるスパイスのような使われ方をしています。

ちなみに、以前「RYUKOKU CINEMA特別企画『ウクライナ情勢を知る映画紹介とミニレクチャー』」というイベントがあり、ほとんど0円大学で取材させてもらったことがあります。

こちらはロシアによるウクライナ侵攻を受けて、急遽開催されたイベントのため、少し毛色が違うかもしれないのですが、映画とレクチャーを組み合わせることで、レクチャーのみよりもぐっと間口が広がっていたように感じました。

企画者である大学は、せっかく一般向けの取り組みをするなら、学問の魅力をしっかりと伝えなければ!と考えてしまいがちです。でも、一般の人のなかで、学術情報へのアンテナが立っている人ってごくわずかだと思います。多くはアカデミックな内容について、そもそものところで意識が向いていない…。もちろん、ごくわずかの人たちをターゲットにして、濃ゆい講義を提供するというのもありでしょう。だけどそれとは別に、普段、大学のことなんて頭の片隅にも入っていない人たちに、大学の魅力、つまりは学問の魅力を伝えることも、同じかそれ以上に大事だと思います。

龍谷大学の取り組みは、学問以外のものをイベントの主題にすることで、普段とは違う層のアンテナに引っかかるようにした取り組みだと感じました。また、映画を観て、そのあとにレクチャーがあることによって、映画に対する感想が変わるとか、こういう視点でも見ることができるのかと知ることができる。これって、学問の効用をわかりやすく実感する経験だと思うんです。極論ですが、学ぶということは、自分の視野を広げることだと思うからです。

人によって意欲に差はあるものの、学生は学費を払って能動的に学びに来ます。一方、社会一般の人は、一部の学問に対して熱心な人を除けば、学びに対して無頓着です。こういった人たちに興味を持ってもらいたいなら、こういった人たちに寄り添った工夫が必要になります。それは学生向けの授業に対する工夫とはまったく異なるものです。今回の龍谷大学の取り組みからは、この工夫の跡が感じられました。

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