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シリーズ・風景のわたし〜いっそ喰われてしまえばいいのだ〜

いっときだが、連れ合いの機嫌がへんなときがあった。要は、不機嫌。いろいろ思い当たるところも、あり、勝手にあれこれ思い巡らせていたら、そのうちになおった。ああよかったと、思いつつ、でもなんだか気になる。すごく、気になる。こうなるとワタシはもう居ても立っても、いられないのだ。他に仕方がないのである。なんとかして、糸口を探ろう。そう決心して、ワタシは話題の間合いを縮めながら、そのあたりのことに、努めて遠慮がちだが確信を持って。あたかもおっぱいを触るときのように、触れてみた。そうしたら。

「ガッカリしてるんだなあ、って、思ったから」

え? 何が?

「だってすごく難しい顔、してるんだもの、ご飯の写真、投稿して」

ご飯の写真。。ああ、このところ投稿してた毎食の、アレね。でもそれが?

「やっぱり、美味しくないんだなあって思った」
「え? すっごいおいしかったよ、オレそんなにまずそうに食べてた?」「そんなことない」「だろ? じゃ、なんで?」

どことなく噛み合わない会話が、行き来し、次第におっぱいからさらにその先へとつづく気持ちが、盛り上がる。こうなるとせっかちなワタシは、大胆だ。すぐさま生あたたかい核心が、触れてきた。かなりわかってきた。そうだ、すごく、わかってきてしまって性急に、意思の疎通が、合体した。そして、ええ! となった。ワタシは堪えきれずに驚きの、精を、放ってしまった。連れ合いはワタシにとってはそのきっかけとなるこんなシビれる、ことを言った。

「だってなんの、コメントも、つけてなかったでしょ」

あー。。けだるい、果てのあとの、それはワタシにとってまさかの言葉だった。でもとても、単純なことなのだった。なんでもいいのだ。美味かったでも、ご馳走様でした、でも、遺影もといイエイ!でも。要は、食卓の、風景がまるで伝わらない、食品サンプルの羅列みたいな、展示、ではなくて。味わいやら匂いやらまでいかなくても、いいから、そこに繋がる、ヒント、が、ささやかにでも写真のコメントとして添えられていれば、よかったのだ。

ワタシは、すっかり、ナメて、いたのだ。。いや舐めが足りないのでは、断じて、ない。クドイようだけどそこじゃあ、なくて。ワタシは、夫婦で食卓を囲むというときに要求される、ささやかだけれど大事なことを。

たかが投稿なのだ、と、タカを括っていたのだった。。その代償はワタシにとっては、夫婦仲の亀裂への道さえ、意味した。快感への、あくなき追求と、夫婦和合の、融点。詳しくはかの高名な、性の伝道師さまに、譲るが、ともあれこれを追求する、つもりの、このワタシにとって、なんのこころの高まりもない、文字通り味わいのひとつもない、まぐあいにも、似た、殺風景な食卓の風景を。

惰性で投稿するという、慢心が、あった。。それにしてもどうしてこんなに高ぶる必要が、あるのか。もちろん連れ合いはワタシのこんな意味不明な、高揚感にも似た狂気を、知らない。いや実は、知っている。でもあんまりだからなのかは、わからないが、見逃して、流してくれる。もしかすると、狂気に硬くなった、竿を、ぶっ刺した共同幻想がなせる、過剰さ、なのかも知れないが、それでも流してくれる。。嗚呼、オレは恵まれている。ワタシはこうしてふざけている中でも、また台所に立ちおいしいご飯を作ってくれる彼女に、感謝する。そしてまた、つぶやく。

たかが食卓の風景じゃあ、ないか? と。

でも。止まらないのだ。。あのカッコいいロックンローラーさまの、ように兎に角、止まらないのだ。ダサい、が、止まらないと、わかっていて、その上でこころの下半身はまるで中学生のように、まだまだエレクトするのである。こうなるともはや食卓の風景すら、ワタシの前から、飛んでゆく、のだが、それをワタシはポヨンと間が抜けたiPhoneの音をたてて、こうして、また撮影するのだった。。カッコいいことなんて何も、ない。どうだあ! と、えがちゃんこと某芸人さんのように脱いで見せてカラダが張れる、くらいの妄想すら、ないのだ。しかももうワタシはそんな、妄想が喰えない代物であることがわかるくらいにアタマが冷め始めている、ことに、気づいている。ああ! 冷めちまう。。

いや、そろそろワタシは、服を、着よう。。少なくとも答えは。あの風の向こうには。

舞っていない。ひとつだけわかっていること。それは。

ワタシは尾崎豊ではない、ということだ。。だから卒業なんて、しない。代りにワタシは。

クドイくらいに、ますます、色づいて、いるのだ。。ちなみに本日の昼食は、シャケチャァハン。冒頭の写真に写ってはいないが、連れ合いはこんな妄想から現実へふたたび戻ってこようとしようとしている、ワタシに、アサヒドライゼロを持ってきてくれた。持ってこようか?と。

「まるでオレ、いま喫茶店にいるみたいだな」

ははは。ウフフ。サザエさんみたいに連れ合いが反応する。こんな風景のどこに、猥雑さがあると言うのだろう。ワタシは、つぶやく。サジで、かっこむ。猫を飼っているから油断ができない、からではなく、堪らなくて仕方なくかっこむ。偽物のビールを、飲む。また、かっこむ。

そしてここまで引っ張ったあげく、見えてくる景色は文句なしに。

美味い、である。

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