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マッドパーティードブキュア 96

「お客様、店内での暴力行為はお控えください、。」
 ウェイターは壁の穴へと向かう。店中に倒れ伏す客たちを踏まないように慎重な足取りで歩いていく。その間にも象はあたりに転がる客たちを踏みつけ、まっすぐに進んでくる。
「どうする?」
 机の影に隠れてメンチが尋ねる。
「逃げるのが良さそうでげすけど」
「逃げるったってどこへ?」
 メンチが穴の外を指差す。濃淡を持った暗闇が嵐のように吹き荒れている。直線の象の前に立ちふさがるのと、どちらが安全かわからない。
「やっつけよう」
 女神が象を指差して言った。
「いや、女神さん、そんな義理はねえでやすよ。だいたいあの店員さんが」
「だめだよ」
 女神が首をふる。その目線の先で象の足が踏み降ろされる。潰された客の口から聞こえない悲鳴が上がる。
 ウェイターはまだ象の近くに辿り着かない。象に弾き飛ばされた店全体の歪みが、両者の距離を非幾何学的な関係に圧し潰して変容させてしまっているのだ。
「君たちならできるよ」
 メンチとマラキイを見据え女神は言う。
「仕方がねえな」
 頭を掻きながら口を開いたのはマラキイだったた。立ち上がり、息を吐く。
「兄ぃ、いいんでやすか」
「なんか気づいたことがあったら知らせてくれ、やったことのないタイプの相手だ」
「……わかりやした」
 少し間が空き、ズウラは頷く。マラキイは机の影から飛び出した。
「仕方ねえな」
 舌打ちとともにメンチも後を追う。
 二人は並び立ち、叫んだ
「「ドブキュア! マッドネスメタモーフ!」」
 七色に輝く泥濘が二人を包む。ドロの中で二人の服はノイズに変換され、獰猛な戦闘衣に上書きされる。泥濘が一際濃くなってから、晴れる。
 メンチが赤い大斧を翳して叫ぶ。
「命もたらすカオスの揺籃、ドブディフィート!」
 マラキイが両の拳を握って叫ぶ。
 「すべてを掴むドブのうねり、ドブプライヤー!」
「あたしらが相手だ!」
 メンチが象を怒鳴りつけた。

【つづく】


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