マッドパーティードブキュア 114
「ねえ」
口を開いたのはテツノだった。窓の外に目をやりながら、わくわくした口調で続ける。
「ちょっと行ってみようよ、メンチ」
最後のメンチ、という呼びかけににアクセントが置かれた言葉だった。メンチは顔を上げてテツノを見て、窓に視線を移してから、マラキイに目線を移した。
「それがいいでやすよ」
ズウラが口を挟む。水を口に含みながら続ける。
「ずっとこんな所に座りっぱなしでやすから、気がくさくさするんでやしょう」
「それはよ」
「メンチ」
マラキイに向けて振り上げられようとした指先は、テーブルの上でテツノに抑えられた。メンチの腕に青筋が浮くが、抑えられた手はピクリとも動かない。
「あたし、外行ってみたいな」
じっ、とメンチと目を合わせたままテツノは穏やかな声で「お願い」する。
しばらくそうしていてから、メンチはため息をついて頷いた。
「わかったよ」
「ありがと」
にっこりと笑ってテツノが立ち上がる。赤い痕のついた腕を軽く振りながらメンチも立ち上がり、斧を手にとった。
「あんたらは行くのか?」
メンチはマラキイたちを振り返って尋ねた。ズウラが首を振って答える。
「あっしらはしばらくここで休んでやすよ」
いいですやすよね、とマラキイに問いかける。マラキイは黙って軽く頷く。
「メンチたち、どこ行くの?」
うとうとと目を擦りながら女神が口を挟んだ。
「ちょっと外に散歩に行ってくるよ」
優しい口調で語りかけるテツノに女神は手を伸ばした。
「え、私も行きたい」
「眠いんでしょう?」
「でも、外が気になるから」
テツノはどうしょうかと周りを見渡す。テツノとマラキイはむっつりと何も答えない。ただ、ズウラだけが
「いいんでないでやすか?」
と頷いた。
「ここにいても退屈でやしょうから」
「危なくないですかね」
「それはお二人に見ててもらえりゃ」
メンチは黙ったまま肩をすくめて頷いた。
「じゃあ、行こうか」
テツノは女神の手を取った。
【つづく】
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