マッドパーティードブキュア 124
「どうぞ」
机の上に置かれたのは、予想通りに得体のしれない物体だった。
テツノは首を傾げ、顔をしかめる。
「これって、なんなんですか?」
喉の奥に飲み込んだ疑問を代弁するように、女神が尋ねた。その隣ではメンチが同じように首を傾げ、斧に手を伸ばしている。
「 の ですよ」
「え?」
「ですから、 の です」
答える影のざわめきは、上手く聞き取れない。おそらくこの食べ物と思しきものの名を答えているのだと思う。ざわめきは焦点の合わされていない双眼鏡のように遠くにぼやけて、耳や頭を通り抜けていく。
「そうですか」
テツノは聞き取ることを諦めて、目の前の皿の上に置かれた物体に向き合った。目で見てみも物体は上手く認識できない。見る角度を変えても、影がかかったように薄暗くその正体を識別するのは難しい。
メンチと女神が視線を送ってきているのを感じる。
テツノは恐れを隠して、皿に手を伸ばした。先陣を切るのは自分の役目だと思った。
影たちのやり取りを聞いて、もてなしの提案を受けると言い出したのはテツノだった。メンチはだいぶ不満そうな顔をしていた。
二つの影の様子があんまりにも残念そうだったから、思わずもてなしを受けることにしたのだ。
だからテツノはさらに手を伸ばす。
「うん?」
つまんだ指先にふわりとした感触が伝わる。綿か雲をつかんでいるような軽い感覚。落とさないように口元へ運ぶ。
メンチと女神と、影たちの視線が自分に向けられているのを感じる。少し緊張しながら、指先につまんだそれを口の中に詰め込む。さりげなく目を閉じる。食べるものの味に集中しようとしているふりをする。
口の中に軽さを感じながら、口を閉じ、咀嚼する。
「ん?」
ぎゅっと、テツノの眉間に皺が寄った。頭の中をくらりと酩酊の稲妻が通り抜けた。思考が、身体が拡散する。広がって薄くなっていく。
「テツノ!」
どこか遠くでメンチが叫ぶ声が聞こえた。
【つづく】
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