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マッドパーティードブキュア 163

「まあ、あの獣たちの話でもあるのですが」
 セエジは窓の外から先程の戦いの場に目をやった。獣たちの姿はもうない。ただ、砕け散った岩の欠片だけが、激闘の痕跡を残している。
「もうお察しのことかもしれませんが、ここに現れている獣たちは、ここの外であなたたちを襲っていた獣と同じ種類の者たちです。それはお分かりですか?」
 反応を確かめるように、表情を伺いながらセエジは言葉を続ける。
「まあ、そんな気はしてたでやす」
 しぶしぶズウラが頷くのを見て、メンチは忌々しそうな顔をする。一度聞いてしまえば、望むと望まないとにかかわらず、相手の術中にはまってしまうような気がする。一番よいのは最初から耳に入れないことなのだ。
 だが、ズウラが頷き返事をしてしまうのも、わからないではない。
 セエジの声は耳を通って頭の中に浸み込み、忍び寄る。目をそらすように、耳をふさぐことはできない。この声も黄金律鉄塊の影響下にあるというのだろうか? そんな余計な考えが頭に浮かぶ。それさえもセエジの思惑のように思えてしまう。
「てめえが使ってたあのバケモンはなんなんだよ」
 話の流れを手繰り寄せようと、メンチが口を挟む。セエジがにっこりと笑う。失策だったかと後悔が浮かぶ。
「そちらも気づいているかもしれないとは思いました。似ていたでしょう? あれはどちらも、黄金律鉄塊の技術を応用したものなのです」
「あんなぐちゃぐちゃなものがか?」
「ええ、黄金律鉄塊がかき消す混沌をある濃度まで圧縮するとあのように動くものができるのです。そして、それは黄金律を知るものならある程度操ることができます」
「お前がやっていたように、か?」
「ええ。もちろん私がやっているのではありませんが」
 セエジは微笑んだまま頷き、それからゆっくりと首を振った。
「現在このあたりにあの獣がかなりの数徘徊しているようです。そのようなことができるのは奴らの他にはありえないでしょう」

【つづく】


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