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マッドパーティードブキュア 339

 とっさに、両手をメンチの斧に叩きつけていた。
「ぐあああ!」
 間抜けな悲鳴がマラキイの口から漏れる。手のひらの表面がこそげていく。魔法少女の力の手のひらの大部分と、マラキイ自身の手のひらの肉の一部がスライスされて宙に舞う。
「なにを!」
「そっちもだ!」
 マラキイは痛みをこらえて、かろうじて残った魔法の手のひらでマラキイの斧の表面を叩く。傷口から赤い血が噴き出す。同時に斧にこびりついていた黄金の文字式も斧から剥がれ落ちて雲散霧消する。なんとか斧を守ることはできたか。安心感が湧いてくる。並行して痛みが意識を支配した。
 両腕を喪失したかのような痛み。魔法少女の力で作られた斧はただの斧ではなかったということか。マラキイは自分の手のひらから電撃のように伝わり続ける痛みを感じながら思った。まるで、存在そのものを叩き壊されたかのような痛みだった。痛みに意識が遠のく。動揺したメンチの顔が見える。
「気にするな。だが、悪いな、あとは」
 お前がやってくれ、と続けたかった言葉は口から出なかった。全身から力が抜ける。無防備に地面に倒れ込む。痛みはない。両手からの痛みに比べたら些細なものだ。指の一本も動かせない。
 テツノたちは大丈夫だろうか。かろうじて眼球を動かす。安堵の感情が脳を走る。セエジはちゃんと役目を果たしてくれているらしい。正黄金律鉄塊の結界の中で、女神とセエジは地面を見つめていた。地面? もっと見るべきものはあるだろう。メンチの動きを見ていてもらわないと困る。
 そこまで考えて、二人が見つめているのが自分であることに気がついた。全力を振り絞って首を振る。自分なら大丈夫だ。意図は伝わるだろうか。二人の心配そうな表情は変わらない。自分のことよりも次の策を考えてほしい。そう思う。二人ともマラキイよりも頭が良いのだから。
 かすかに視線が動く。テツノが視界に入った。テツノは二人と違って、顔を上げていた。

【つづく】

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