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マッドパーティードブキュア 237

「それで、話を聞こうか」
 じめりとした柱にもたれかかりながら、メンチは言った。受注担当官は顔をしかめながら、床に腰を下ろした。
「どこから話せばよいですか?」
「最初からだよ。なんで、あんたはあんなところにいたんだ?」
「それはですね」
 受注担当官は顔をしかめて、うつむいた。少し考えてから、顔を上げ、口を開く。
「メンチさんが顔を出さなくなってから、しばらくしたころだったと思うのですが」
「おう」
「奇妙な依頼が連盟にやってきたのです」
「どんな依頼だ?」
 あまり滑らかでない口調で話す受注担当官に、先を促す意味を込めてメンチは尋ねる。
「あるものを探してほしいという依頼でした」
「あるものってのはなんだよ」
 物を探してほしいなどと言う依頼は、調達屋連盟にはかなり頻繁に寄せられる依頼のはずだ。そもそも、そのための連盟なのだから。それをあえてぼかして言う調達官の口ぶりには、なにかしらの特殊な要素の存在がほのめかされていた。躊躇いがちに調達官は口を開く。
「袋です」
「袋?」
 ぴくり、と眉が動いてしまったのを感じた。メンチはできるだけ他感情を出さないようにしながら、尋ねた。
「どんな袋だよ」
「わかりません。ただ、袋を探してほしいと」
「袋と言っても、色々あるだろ」
「ええ、ですから、場所の指定もありました。それが」
「あの棲家だったってことかい?」
 老婆が口を挟んだ。受注担当官は頷いて言葉を続ける。
「ええ、女神のいなくなったあの棲家から袋を見つけてほしいという依頼でした」
「わざわざあんたが探しに行ったのか?」
 メンチは首を傾げた。受注担当官は文字通り、依頼を管理する役職だ。受け取った依頼を連盟の会員に割り振っていく。わざわざ危険な仕事に手を出す必要はないはずだった。
「最初は別の者に行かせたのですが……帰ってこなかったのです」
「へえ」
「何人か行かせましたが、駄目でした。偵察に出したものさえ戻ってきませんでした」

【つづく】

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