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マッドパーティードブキュア 235

「どうかしたでやすか?」
 ズウラが怪訝そうな顔で首を傾げた。
「いや」
 メンチは曖昧に答えて、違和感を探る。なにか引っかかっている。あの棲家にいた「子どもたち」のうちの一人だ。メンチが助けたあの男。人相の悪い無表情な顔が頭の片隅にちらつく。なんだろう? 記憶を辿る。
 そして、たどりつく。あの嫌味な顔は確か……
「調達屋連盟だ」
「え?」
「間違いない、調達屋連盟の受注担当だ。あの茶をこぼして、殺されそうになってたおっさん」
 言葉にすると記憶が確かに色づいていく。外からの依頼をメンチたちに振っていた担当者だ。いつもいつも困難な仕事を押し付けられてばかりいた不愉快な記憶も同時に蘇ってくる。
「それは、確かなんでやすか?」
「ああ、すっかり腑抜けみたいな顔になってたからすぐには分からなかったけれど、あんな嫌味な顔は間違いない」
「でも、じゃあなんであんなところに?」
「それは……」
 問われてメンチは口ごもる。何がおきたのかはわからない。調達屋の現場は危険と隣り合わせだ。幾つもの危険な現場を乗り越えて初めて連盟の手配役に上がれる。その地位をわざわざその地位を捨てるとは考えづらい。
 ましてやよくわからない存在の「子どもたち」の一人として粗雑に扱われるなど、どんなことが起きてもありえないように思える。
「そういえば」
 老婆が首を傾げながら呟いた。
「あたしもあの『子どもたち』の中に見た顔がいた気がするねえ」
「誰でやすか?」
「やっぱり随分印象が変わってたから自身はないけど、入り口のとこに座っていたのは、ノノミじゃなかったかい? ほら、鉋突組の若頭の」
「え?」
 ズウラが少し考えてから頷いた。
「そういえば、そうかもしれないでやす」
「いったいあの女は何者なんだ?」
 三人は揃えて首を傾げた。
 そのとき、がさりと足音がした。メンチは一瞬で斧を振り上げる。
「思い出していただけたならありがたいです」
 扁平な声が聞こえた。


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