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マッドパーティードブキュア 67
走る。走る。本棚のスキマを抜け、駆ける梯子を追いかける。
どこまでも続く本棚の果てに、梯子の姿が見え隠れする。
「ちょっと、待って下せえ」
ズウラが息も絶え絶えに足を止める。へたりこんで苦しそうにあえぐ。
「どうした?」
メンチと老婆が立ち止まる。メンチが梯子の行く先を気にしながら、気遣いの声をかける。
「ああ、いや、その」
「早くいかないと」
「いえ、あっしのことは気にせずに先に」
「こんなとこに置いてけないだろ」
あたりを見渡してメンチが言う。
「この辺りに敵の気配はありやせん。それに」
ズウラは何とか身体を起こして言葉を吐く。
「なんだよ」
「ちょっと気になることもあるんでやす」
「気になること?」
「そんな大したことじゃねえでやす。それよりもお二人はあいつを折って下せえ」
ズウラは重たげに腕を上げ、梯子の痕跡を指さす。
「でも」
「わかりました。お気をつけて」
言い返そうとしたメンチの言葉を、老婆が遮った。
「すまねえでやす」
「調べ物が終わったら追いついてきな」
「もちろんでやす」
「なんかあったら呼べよな」
「ありがとうでやす」
不服そうな顔のまま、メンチが言う。敵地に戦闘の得意でないズウラを置いていって、大丈夫だろうか。けれどもズウラの意思は固そうだった。
「あばよ」
「そんじゃ、また」
あるいは最後の言葉になるかもしれないなどという予感を振り払う。いざとなれば自分が助けに来ればよいだけだ。
メンチは振り返り、再び走り出した。すぐに老婆もメンチの跡を追って走り始める。
二人の背中が本棚の果てに消える。
「さてと」
息を整えて、ズウラは本棚に向き直った。本棚にはいくつかの歯抜けがあった。歯抜けの隣に手を伸ばす。
「そういえば」
歯抜けの様子がなぜだか、少し前に別れた仲間のことを思い出させた。
あいつは、あの後生き延びたのだろうか。マラキイが気にしていたことを思い出す。この図書館で調べたらわかるだろうか。
【つづく】
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