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マッドパーティードブキュア 119

「この先には何があるんだ?」
 先を歩くメンチが、影に尋ねるのが聞こえる。
「ずっとこんな感じですよ」
「なんも面白くねえな」
「すみませんね」
 不機嫌そうなメンチに影があいまいに笑って答えている。テツノは少しだけ足早に二人に追いつきながら尋ねる。
「なにか、変わったものとかあるんですか?」
「この辺はいつも変わり続けていますからね」
 ふうむ、影はうなって考え込んで見せる。この影はいちいち言葉遣いが大仰だ。もしかしたら、それがメンチを苛立たせているのかもしれない。メンチを横目で見る。落ち着きなく斧を右手に左手に持ち替えている。それでも歩く速度は緩めない。
 どこへ向かっているのかはわからないけれども、一行は確実にあのレストランからは遠ざかっていく。そんなに歩いているわけではないのだけれども、とても遠くまで来たような気がする。
「また、戻れるんですよね?」
「はい?」
 何気ない問いかけに、影が尋ね返してくる。問いの意味をまるで理解できていないというように。少しだけ不安になり、テツノは付け加える。
「ですから、さっきのレストランに」
「あー、ええ、まあ」
 ひどく歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「戻れるんですよね?」
「多分戻れますよ」
 影は答える。その声音の裏からジワリと不快な予感を感じた。
「多分って何ですか」
「んー」
 影は立ち止まり、振り返る。すっと、指を上げてテツノたちの後ろを指さした。テツノは振り返る。もうレストランは見えない。
「どういうことですか?」
 それなりの距離を歩いてはいるけれども、そこまで大きな坂を超えた覚えはない。見えなくなるということはないはずだ。
「この世界での距離とか方角というのはあまりあてになるものではないですから」
「それじゃあ、帰れないってことですか?」
「そんなことはないですよ。いつかは帰れます。道は続いていますから」
「でも」
「いいじゃないか」
 二人の言い争いをメンチが遮った。

【つづく】

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