マッドパーティードブキュア 241
「それからは……皆さんが知っている通りです。私は、メンチさんにお茶をかけてしまい、あの女に殺されかけて、そして……そしてあの音を聞いたのです」
「音?」
受注担当官は頷いた。
「ええ、あの音です。世界が割れるような音。あの音で私は少しだけ意識を取り戻したのです」
その言葉を聞いてメンチは思い出した。メンチが斧で女の一撃を受け止めた時の激しい音を。
「目の前でメンチさんとあの女が言い争っているのに気が付きました。私は必死に気づいていないふりを続けました。それから、あの女の目を盗んで逃げだして皆さんに声をかけたのです」
「なるほど」
メンチはズウラと老婆の様子をうかがった。話を聞いても何が起きたのかはわからなかった。
「確かにあの音は何か奇妙な感覚があった」
口を開いたのは老婆だった。老婆は両手をこすり合わせながら言葉を続ける。
「いやに骨に響くような、なにか不思議な音だったよ」
「そうでやすか? 確かに大きな音ではあったでやすけど」
老婆の言葉にズウラが首を傾げた。それを見て老婆は眉を寄せて少し考えてから言った。
「あんたにそう聞こえたとするなら、もっとわかることがあるかもしれない」
「どういうことでやすか?」
「あたしはこの腕にあの音が響くのを感じた」
言いながら老婆は両腕を三人にかざして見せた。おぼろげにかすんだ老婆の両腕が暗い行動の中で揺れた。
「でも、ズウラ、あんたにはただの音に聞こえたんだろう?」
「そうで、やすね」
ズウラが頷く。
「あたしの腕とあんたの耳に違いがあるとするなら、だ。そしてかち合ったのがメンチの斧とあの女の拳だってことを考えると、だよ」
「なんでやすか?」
「やっぱり、あの女は混沌の力を宿しているのかもしれないね」
「混沌の力……ですか?」
受注担当官が首を傾げた。
「ああ、そういう力があるんだよ」
「その力というのはもしかして……」
説明しようとする老婆を遮って受注担当官が言った。
【つづく】
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